たばこ塩産業 塩事業版 2012.6.25
塩・話・解・題 87
東海大学海洋学部 元非常勤講師
橋本壽夫
減塩食品用調味料について
減塩政策に沿ってさまざまな減塩調味料が市販されている。減塩食塩、減塩醤油、減塩味噌などである。先日開催された国際食品素材/添加物展を訪れ、最近、食品加工で減塩のために使用する減塩食品用調味料が市販されていることを知った。新しい考え方で開発された商品として紹介する。
技術開発で新製品が
過剰な食塩摂取量が健康にさまざまな悪い影響を及ぼすらしいとの研究結果(食塩仮説)が発表され、それが万人に当てはまる確定した事実のように報道されているが、遺伝・環境要因による個人差、他の要因との相互作用の問題などのために未確定で、海外では万人に対する減塩の可否について論争があり、食塩仮説の信憑性を追及する研究が続けられている。
塩味は食べ物を美味しくし、食欲を引き起すために必要であるが、過剰な摂取量を避けるために減塩醤油や減塩味噌が開発され、市販されるようになった。しかし、醤油・味噌独特の味・香り・こくが再現されないことや保存性が悪くなるといったさまざまな問題があることから、それらを解決するための技術開発が進められ新しい製品が市場に登場している。
塩化カリウムが1982年に食品添加物に指定されて以来、塩に塩化カリウムを50%添加した製品が市販され始めた。このような製品は使用上の注意事項を記載の上、既にライトソルトとしてアメリカで販売事績があったので、その輸入販売から始まった。これは食塩代替物の代表的な製品であるが、塩化カリウム独特の味が嫌われるという問題がある。
味のバランスが重要
塩は他の味を強化する作用を示し、塩を入れることにより甘味が強められ、うま味が強められて美味しさが増す。肉や甲殻類の美味しさは塩がないとあまり感じられない。しかし、塩の摂取量を抑える点から考えると、塩味を強める物があればよい。塩の濃度が薄くても美味しさを感じられ、その結果、減塩になればよい。
うま味成分は塩の使用量を減らし減塩につながることは知られている。アメリカ塩協会は、塩と健康に関する論文集の「食塩代替物の毒性」の中で、塩味強化剤や食塩代替物として表1に示す物質を挙げている。塩味強化剤にはうま味成分が多く、その使用は減塩につながることを裏付けている。
うま味成分も含めて如何に上手に味のバランスをとって塩味を強める製品を開発するかが重要となる。
表1 塩味強化剤と食塩代替物 | |
塩味強化剤 | 食塩代替物 |
5-リボヌクレオチド | 塩化カリウム |
グアニル酸2ナトリウム | 塩化カルシウム |
イノシン酸2ナトリウム | 硫酸マグネシウム |
イノシン5’-1リン酸 | 各種金属イオン代替物 |
5'-グアニル酸 | |
グリシンモノエチルエステル | |
L-リジン | |
L-アルギニン | |
乳酸塩 | |
ミコセント | |
グルタミン酸ソーダ | |
トレハロース | |
オルニチル-@-アラニン | |
L-オルニチン | |
Salt Institute, SALT & Health, Spring 2009より |
うま味と塩味を両立
キリン協和フーズ(株)はソルテイストKL(以下KL)とソルテイストRS(以下RS)の2種類を業務用に開発し市場に出した。食品加工で使われる塩の量を減らしながらも塩味を満足させうま味も維持させようとするものだ。
KLにはナトリウム(塩)を50%減らしても良好な塩味を付与しようと塩化カリウムが1/3量使われており、塩化カリウムのエグ味を感じない良好な風味を付与するためにL-アルギニンやL-グルタミン酸ナトリウムなどのうま味成分が加えられている。塩を半分に減らしたハムにこの製品を0.6%添加したときの効果を図1に示す。通常の製品を対照区として各種味の要素を評価して一番外側の5.0の目盛りを繋いだ円形のパターンが、減塩区では嗜好性をはじめ何点かの要素が3.0付近まで下がり、バランスが取れていないいびつな円形パターンとなる。しかし、KLを0.6%添加した区では評価の低かった要素が対照区近くまで改善される。
図1 ソルテイストKLの効果 (ハム:Na低減率50%) キリン協和フーズ(株)パンフレットより
このパターンは使用する食品によって変わると思われるが、パンフレットによると、使用おすすめ食品としてスープつゆ(醤油・味噌ラーメン、コーンスープ)で15〜25%、佃煮・漬物(佃煮・浅漬け調味液)で25〜30%、食肉加工品(ハム、ソーセージ)で35〜50%、和風ドレッシングで50%とそれぞれの塩使用量を低減できるという。
失われる「味」を増強
もう一つの製品RSには「風味の強化効果」を再現させるためにタンパク質の加水分解生成物を糖類と反応させた物やアミノ酸の調味料などが入っており、減塩で失われる「力強い中味、持続力のある後味」を増強し、うま味のあるバランスのよい風味に仕上げるために開発されたもので、塩を20%減らした味噌汁の味に及ぼす効果を図2のように表している。各要素間のバランスがよく改善効果が高いことを表している。使用おすすめ食品としてスープつゆ(味噌汁、めん・おでん・鍋つゆ)で15〜25%、和風調味液(煮物・牛丼調味液)で20〜30%、中華惣菜(麻婆ソース)で20〜25%、かつおだしの素で75〜80%、ケチャップで50%とそれぞれの塩使用量を低減できるという。
図2 ソルテイストRSの効果 (味噌汁:Na低減率20%) キリン協和フーズ(株)パンフレットより
ほかにうま味付与製品として富士食品工業(株)のバーテックスIG20が出展されていた。これはうま味成分の核酸を20%以上含んでいる酵母エキスに遊離アミノ酸と有機酸を加えたもので、うま味付与のほかに謳っている3つの機能の中に塩味エンハンス(強化)機能があるという。入手したパンフレットには具体的な塩味強化データはなく、効果の程度はわからない。
香料で食塩の代替図る
もう1点、長岡香料(株)はソルトブースター(塩味強化剤)とソルトリプレイサー(食塩代替物)を出展していた。これらの製品は香料で塩味強化や食塩代替を図ろうとするもので、従来にない新しい試みのように思える。いくつかあるソルトブースターの特徴の中で塩味に関することでは、塩味増強効果が10〜30%あり、塩化カリウムの苦味を軽減する、と謳っている。添加率についてはソルトブースターが0.1%を目安とし、ソルトリプレイサー(塩分含有量は50 g/100 g)については食塩の代わりに使用するとしている。製品のイメージを図3のように示しており、減塩製品にソルトブースターを0.1%程度加えるだけで、塩味の強さはソルトリプレイサー程度に強くなっている。ソルトリプレイサーの塩味の強さは通常製品とほぼ同様で、食塩の代わりに使用することで塩味をそのままに、食塩使用量を半分に抑えられるという。
図3 ソルトブースターとソルトリプレイサーの効果イメージ 長岡香料(株)パンフレットより
香料を用いた同様の製品は小川香料(株)からも販売されている。
厚生労働省が進めている減塩政策の成果がなかなか上がらない中で、加工食品の減塩がポイントとなり、美味しさと塩味を満足させる商品を提供することが重要で、それを見越して塩味強化剤や食塩代替物が開発され、新たな商機となりそうである。