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たばこ塩産業 塩事業版  2012.5.28

塩・話・解・題 86 

東海大学海洋学部 元非常勤講師

橋本壽夫

 

融氷雪用塩の貯蔵

 

 雪や氷で悩まされる時期はほぼ過ぎたが、5月になっても時折、寒気団が南下して竜巻被害を起こし、北の国では降雪や凍結も起こり、不順な天候が現れている。3月版ではアメリカ塩協会資料から融氷雪用塩の散布法を紹介してきた。引き続きこの度はその貯蔵法についての資料から紹介する。

 安価で容易に入手・散布

 アメリカでは一般道路、高速道路の雪や氷と戦う主たる武器として塩は1940年代以来使われてきたという。アメリカとカナダで年間約3,300万トンの塩が生産されているうちの約1,5002,500万トンが融氷雪用塩として使われ、最大の用途となっている。雪や氷が道路表面に付着することを塩は妨げ、危険な雪や氷を効率的により早く除去する。塩がなければ道路表面から完全に雪氷を取除くことはできない。今日では冬の道路管理を担当しているほぼすべての機関が塩を使っている。

 資料では塩が理想的な融氷雪剤であるとする理由として、@容易に入手できる、A安価である、B貯蔵や取り扱いが容易である、C容易に散布できる、D毒性がなく、皮膚や衣類に無害である、E適正に使用し、貯蔵すれば環境に無害である−と言ったことをあげている。

 このようにアメリカでは塩に優位性を置いているが、筆者が関東で時々見かける融氷雪剤には塩化カルシウムが使われており、その都度、無駄使いをしていると感じられる。

 

岩塩を「散塩で貯蔵

 融氷雪用塩には岩塩が使われるので、貯蔵は散塩で行われる。日本では天日塩を粉砕した物が使われ、数量も北米ほど多くないので、貯蔵はフレコンの1トンバックか紙袋の包装品になっている。したがって、現在では貯蔵法が異なるので参考になることは少ないかもしれないが、貯蔵の考え方や、将来、散塩貯蔵が採用されるときの参考になればと思う。

 散塩貯蔵する理由として、散塩は最も経済的に入手できる融氷雪剤であり、初期費用が安く、取扱と貯蔵が簡単で、迅速・容易に散布できることが揚げられる。塩が適正に貯蔵されれば、空気中の水分による損失もない。相対湿度が75%を超えない限り、塩は吸湿しない。吸湿された水分は後に蒸発する。貯蔵した塩の表面に薄く固まった層ができるが、容易に壊される。

このことは日本では当てはまらない。特に梅雨時から夏場には相対湿度が75%を前後する期間が長く続くので、容易には壊れない固結に進むこともあり、大問題となることがある。それでも日本では固結防止剤を加えないが、アメリカではほとんどの塩生産者は固結防止剤を加えている。

 貯蔵量の多寡にかかわらず、貯蔵している塩を雨や雪に曝してはいけない。溶けて失われるからだ。塩は常に不浸透性のシートの上に置き、タール塗装防水布、ポリエチレン、ポリプロピレンのようなシートで覆うか、屋内に置かなければならない。

 適正に塩を貯蔵すれば、塩が固結して塊になるのを防止できる。塩を流出させる流水、井戸水、地下水が混ざらないようにでき、流出による塩の損失や降雨による溶解を防止する。

 貯蔵する塩の必要量を推定するガイドラインとして、@過去5年間から10年間にわたる平均必要量に基づいて推定するA新しい区画割の道路、州間道路または高速幹線道路、他の行政上の区画割りで加わった道路の見落としを防ぐB保守管理作業の改善−などを挙げている。1回の嵐に4回処理する計算で、地域の塩必要量を見積もる表を作成している。

 

貯蔵場所は“SALTED”

 塩の貯蔵場所を適正に選ぶことは重要で、考慮すべき項目の頭文字からSALTEDというキーワードを制定している。

Safety(安全性):作業員と一般社会に対して貯蔵場所は常に安全でなければならない。例えば、機器操縦者の良好な視界確保、交通量の少ない進入路の設定、警告標識の設置・フェンスの設置で部外者・子供の進入防止、周辺の環境に対する安全性の確保などである。

Accessibility(利便性):視界の悪い嵐の最中でも容易に出入りでき、領域内では機器を安全で自由に都合よく操作できるよう十分に広くし、屋内貯蔵であれば開閉部を大きくして作業性を良くする。

Legality(合法性):環境への排出基準を制定している現地・州・連邦の規制に適合させるように設置する。

Tidiness(整理整頓):貯蔵施設に水や汚水が入らないように、廃品や廃物を周囲に積上げないように管理し、塩への異物混入を防ぐ。

Economics(経済性):散布車に積込むために空車で長い距離を走らせないように貯蔵施設を分散配置する。これにより回送費が軽減され、散布作業を迅速にできる。貯蔵施設には覆いを設け、塩の損失と環境破壊を防止する。

Drainage(排水機構):水はけの良い場所に設置する。床には中心から周囲に向けて30 cm当り6 mmの勾配を持たせる。貯蔵施設からの排水が淡水貯槽、井戸、地下水供給地に流れないようにしておく。必要であれば倉庫周辺に縁を設けて排水溝に注げるようにしておく。

 

野積み「塩堆」の諸元も

 土地の狭い日本では考えられないことであるが、北アメリカでは塩を野積し、その上を不浸透性のカバーで覆って融氷雪用塩を貯蔵することがある。その場合に貯塩量と塩を積上げるに必要な面積を割り出す表を用意している。例えば、180トンの塩を積上げるには直径12 mの円に相当する113 m2の面積が必要で、高さは3.8 mとなり、容量は142 m3となる。表には約9,000トン貯蔵までの諸元が記載されており、その場合の円の直径は44 mにもなる。

 据え置きでは場所を取るので、堰を作った中に貯蔵するとか、サイロ型の貯蔵施設にするとか様々な方法があり、それらについてもどの程度の面積や容積が必要かを計算した表を用意している。

 これらの施設の大きさを計算するときに使う数値は、安息角(融氷雪用塩を自然に落下させて積上げた時の側面の傾斜角)32度と見掛け比重の1.281(1281 kg/m3)だけである。

 

しっかりと安全規則

貯蔵施設内で作業するにあたり様々な安全規則が記載されている。ここでは塩堆に関することだけを紹介する。@歩いて塩堆を登らない、車で塩堆の垂直面に近付かないA塩堆の近く、または塩堆で作業しているローダーや他の機器の近くに駐車しないB塩堆と駐車している物(ローダーや他の車両)の間に立たないC塩堆上部で作業している時、頂上から4.5 m以内には近付かないD塩堆頂上に近付く時には適当な足場を必ず確保し、塩堆表面の穴や他の開口部に注意する。