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たばこ塩産業 塩事業版  2010.9.30

塩・話・解・題 66 

東海大学海洋学部非常勤講師

橋本壽夫

 

なぜ塩・砂糖作りに塩が要るのか?

 

 塩と砂糖の味は正反対である。それらを作るのに塩がいる。塩を作るのに塩が要ることは、輸入塩を塩製品に作りかえることを考えれば当り前のことであるが、ここで要る塩はそのための塩ではない。製塩、製糖に共通して塩が要るのはどうしてか、というクイズに対しての答えはボイラーに関係しており、ボイラー給水を軟水化するイオン交換樹脂の再生に塩が必要であるからだ。


「熱変換」行うボイラー 

汚れ≠ェ伝熱効率を低下させる

 ボイラーは燃料エネルギーを水に伝えて温水や蒸気を作る装置で、その温水・蒸気を熱源として産業装置や生活維持装置に供給している。
  したがって、蒸気を必要とする発電装置、蒸発濃縮装置、蒸留装置、洗浄装置、暖房装置にはボイラーが必要だ。
 ボイラーの使命は熱変換であり、その効率を向上・維持することが重要となる。つまり、燃料が持っている熱エネルギーを伝熱により水・水蒸気が持っている熱エネルギーに効率よく変換する。伝熱管が汚れてくると熱を伝える効率は急速に低下してくる。
  汚れの最たるものがスケールだ。スケールは水垢のことで、水中にあるカルシウムやマグネシウムの陽イオン、重炭酸の陰イオンがスケール成分の炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム生成の原因となる。特殊な物としてシリカスケールや酸化鉄スケールがある。

製塩に塩が必要なわけ

ボイラーのイオン交換樹脂を再生

 水の中に含まれているカルシウムとマグネシウムの合計量を数値化して硬度として表す。硬度が100以下の水は軟水と呼ばれ、300以上では硬水と呼ばれる。その中間は中硬水。
 ボイラー給水中のスケール成分となるカルシウムとマグネシウムはイオン交換樹脂で取除かれる。したがって、イオン交換樹脂に通して硬水を軟水としてボイラーに給水する。イオン交換樹脂が充填されている装置を軟水器あるいは軟化器と称し、ボイラーには必ずこの装置が付設されている。
  この場合に使われるのは陽イオン交換樹脂である。イオン交換部分はナトリウム型になっている。ナトリウムがカルシウムやマグネシウムと置換して交換部分はカルシウム型やマグネシウム型になり、ナトリウムが水の中に出てくる。
 イオン交換能力がなくなってイオン交換樹脂が使えなくなると、再び使えるように再生しなければならない。この時に塩(食塩のような純度の高い塩が良い)が使われる。10%という高濃度の塩水で洗うと、イオン交換樹脂で置換されたカルシウムやマグネシウムが再びナトリウムで置き換えられ、塩水中にカルシウムやマグネシウムが出てくる。このようにして再生作業が終われば、軟水器は再び使えるようになる。この様子を図1に示す。

◇               ◇

 製塩工場は蒸発濃縮法によって海水、かん水を煮詰めて塩を生産しているので、どこもボイラーを持っている。このボイラー軟水器に使われるイオン交換樹脂の再生に塩がいるので、製塩に塩が必要となる。

製糖に塩が必要なわけ

製塩同様ボイラーを使用            

 製糖でも原糖液を蒸発濃縮法で煮詰めて砂糖を生産しているのでボイラーが必要であり、製塩と同様に塩を必要とする。しかし、製糖ではこのためだけではなくイオン交換樹脂を必要としており、少し複雑だ。 原糖液は砂糖キビや砂糖大根(ビート)を圧搾して得られた糖汁であり、いろいろな無機物や有機物が不純物として含まれ、着色もしているので、煮詰める前に原糖液を精製して透明清澄な糖汁にしなければならない。この精製工程の一つにイオン交換樹脂塔が使われる。ここでは陽イオン交換樹脂と陰イオン交換樹脂の2種類が使われる。
 先ず、搾汁糖液に石灰乳を加えて炭酸ガスを吹込み、沈殿してくる炭酸カルシウムにタンパク質、ペクチン、有機酸などの不純物を吸着させ、フィルターでろ過する。
  ろ液のブラウンリカーを骨炭や活性炭を詰めた脱色塔に通して着色物質を吸着除去すると、うすく黄色がかったクリアーリカーが得られる。その中にはまだ少量の着色物質、アミノ酸、ミネラルが残っている。それらを脱色用の陰イオン交換膜樹脂塔、陽イオン交換膜樹脂塔を通して無色透明な糖液とし、煮詰めの工程へ送る。
 これらのイオン交換樹脂はH(陽イオン交換樹脂)OH(陰イオン交換樹脂)になるように、再生しなければならない。つまり糖液中にナトリウム・イオンや塩化物イオンが出てこないようにしなければならない。H型にするには塩酸、OH型にするにはアンモニア水を使う。

イオン交換樹脂を再生する原理について解説

   図1 イオン交換樹脂の再生  http://sekken-life.com/life/soap_refresh.htmより