たばこ塩産業 塩事業版 2010.7.25
塩・話・解・題 64
東海大学海洋学部非常勤講師
橋本壽夫
いろいろな塩の形
自然が作り出す造形美
塩が自然に析出する状態は天日塩田などで見ることができ、条件が良ければ塩の造形美を示す結晶ができる。岩塩坑内でも水に溶けた塩が再び結晶になる際に、これが塩かと思われるほどの造形美を見せることがある。これは石灰岩地で炭酸カルシウムが水に溶け鍾乳洞を作り、炭酸カルシウムが再び結晶するときに作る造形美に似ている。そのような物を含めていくつかを紹介する。
ビェリチカ岩塩坑 全長約250kmの地底採掘坑
写真1に示すのはポーランドのビェリチカ岩塩坑にある塩の鍾乳石。写真2は石筍。この岩塩坑は世界遺産になっており、地下64 mにある第1層から327 mにある第9層までに約250 kmの通路がある。その中に全体の3%にあたるわずかな観光ルートがある。岩塩採掘は5000年も前から行われていたが、11〜13世紀の間に大きく開発された。岩塩坑には地下水が溜まった塩水池や空洞が多数ある。塩水池では写真3に示す立方体や一辺が50 cmにも成長した直方体の単結晶が析出し、水が引いて露出したところがある。空洞では写真4に示す毛髪のような結晶も見られる。
写真1 塩の鍾乳石
写真2 塩の石筍
写真3 氷柱のような岩塩結晶 出典1
写真4 毛髪のような岩塩結晶
写真1〜41:ヤヌシ・ポドレツキ著 ビェリチカ−地底岩塩採掘坑より
塩の結晶成長 成長方向で様々な形態に変化
基本的な塩の結晶は立方体であるが、結晶の成長方向により様々な形態の塩結晶が得られる。その様子を図1に示す。1方向に線状で成長すれば、針状、糸状、柱状、棒状の結晶となる。写真3、4、5、6がそれである。写真7は稜方向に立方体の塩がつながって線状に成長している珍しい岩塩である。
二方向に面状で成長すれば、板状、四角錐、円錐の結晶となる。天日塩田の水面で結晶となるfleur de sel(塩の華)があるが、結晶が小さくて造形美と言えるほど見栄えがしない。
写真5 巻毛のような岩塩(高さ3 cm)
写真6 白髪か霜柱のような岩塩(高さ10 cm)
写真7 角のような岩塩(高さ6 cm)
写真8 ナタ・デ・ココのような岩塩(一辺4 cm)
写真5〜8:Emser Hefte 1990 Janより
三方向に立体的に成長すれば立方体の結晶となる。真空式蒸発缶で撹拌されながら成長するとこのような結晶になるが、大きな物はできない。自然の状態では単独に立方体で大きな結晶に成長することはほとんどない。したがって、写真3で見られる物は極めて珍しい。通常は写真8に示すように凝集晶になる。天日塩田でも析出条件が良ければ、大きくてきれいな凝集晶が得られる。立方体の塩の角がとれると丸くなってくる。自然の状態で直径1 cmほどもの丸い結晶はアフリカのジブチ共和国にある塩湖のアッサル湖で採れる。
自然は塩で思いもよらない造形美を作り出す。ここで紹介した以外にも奇想天外な塩の結晶があろうし、地球の表情として塩の産地を眺めると素晴らしい光景に出くわす。またの機会に紹介したい。