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たばこ塩産業 塩事業版  2010.5.25

塩・話・解・題 62 

東海大学海洋学部非常勤講師

橋本壽夫

 

ニューヨーク市長の減塩政策

米国内の新聞紙上では賛否両論

加工食品・外食など 塩分量25%低下へ

 

 ニューヨーク市長は向こう5年間で加工包装食品やレストラン料理中の塩分量を25%低下させることを2010111日に発表した。この減塩政策に対して新聞紙上で賛否両論、いろいろな考え方が発表されている。その様子を紹介しよう。

 

英の減塩計画をモデルに

「減塩で寿命延ばす」

3期目に入ったブルームバーグ市長は、これまで禁煙、トランス脂肪酸の使用禁止、レストラン・メニューのカロリー表示などを進めてきた。向こう5年間で加工包装食品やレストラン料理中の塩分量を25%低下させるとして健康的な生活運動を始めた。これは、加工食品会社が消費者に気付かれないようにゆっくりと塩含有量を減らすことに成功したイギリスの減塩計画をモデルにしている。
  アメリカの食事で摂取される1日当たりの塩分量は塩振り出し器からは11%に過ぎず、販売される前の食品に加えられている塩分から80%近くを摂っている。したがって、加工食品と外食からの塩分摂取量を減らすのが効果的で、市の運動は他の市、国、保健機関とも協力を進めていく。ただ、減塩は強制ではなく、食品製造者が自発的に取り組むよう要請している。多くの食品製造者は既に塩含有量を減らし始めている。
  8年間の在職中に市の寿命は15ヶ月伸びてきており、高血圧、心臓発作、脳卒中で年間23,000人のニューヨーク市民が死亡し、全国では800,000人が死んでいる。摂取推奨量の約2倍を摂取している塩分を減らしてニューヨーク市に住む人々の生活を改善し寿命をさらに伸ばしたい、としている。

 

アメリカ塩協会の対応

市長に「公開挑戦状」

アメリカ塩協会のサティン技術部長はブルームバーグ氏に以下に示す内容の公開状を送った。
 『この計画は、あなたが成功例と評価しているイギリスの食品標準局減塩計画の真似で、集団的な減塩は非常に優先度の高い問題であると、あなたは信じている。しかし、集団的な減塩は論争中で深い泥沼に陥っている。この問題に関する大多数のメタアナリシスは、集団的な減塩が正当化されているとは結論されていない。そのような行動は予期しない結果をもたらすのではないかと言っている人々もいる。
  疾病管理予防センターが勧めている4/日の塩摂取量であなたは暮らし、私は9-11/日の摂取量を1ヶ月間維持することを提案する。その間に、血液中の化学物質(レニン、アルドステロン、コルチゾルなど)、血圧、動脈脈波速度(動脈の硬さ測定)、尿中ナトリウム量を毎週チェックする。
  さらに、電解質に関する食事ガイドライン小委員会議長のアペル博士と公益科学センターのジャコブソン博士も加えたい。人は1.3 g/日以上の塩を必要としない、と彼等は繰り返し述べてきたので、1ヶ月間1.3 g/日の塩を同様に摂取するこの試験に彼等は参加し、同じテストを行いたい。
  市長、私は疑いもなくあなたが正しいことをすると思っている。しかし、私も同じことをするので、我々は全体的に同等にレビューされた異なったデータを持てる。非常に簡単な仕事なので、誰もが満足できるようにこの問題を解決でき、全ての市民に有益である問題の塩と健康に関する論争を解決できる』と公開挑戦状を出している。

 

ニューヨーク・タイムズ紙 

識者7名の意見を掲載

1月14日付けのニューヨーク・タイムズで“独裁者と塩振り出し器”と題して7人の意見が掲載されており、手短に紹介しよう。

▽食品史の著述家で「塩の世界史」の著者カーランスキー氏:どうして個人の選択に市が介入するのか?必要以上に摂取している過剰な塩は高血圧や他の危険を引起すと言われているが、それは個人に依存している。腎臓は過剰量の塩を処理できるように設計されており、高食塩摂取量は必ずしも高血圧の原因ではなく、減塩は必ずしも必要ではない。

ハーバード医学校教授ウィレット氏:多量のナトリウム摂取量を減らすことが疾患の危険性を減らすことは確かである。全ての食品会社が同時に少しずつナトリウムを減らすと、消費者には変化は分からず、全てが利益を得るニューヨーク市の計画は是認される。多分、食品医薬品局が音頭を取るので、全国民が同時に利益を得られる。

アメリカズ・テスト・キッチン(TV番組)のキャスター・キンボール氏:味覚の専門家である商人は誰でも、塩、砂糖、脂肪が消費者の反応に対する鍵であることを知っている。例えば、“アメリカ人の試験台所”で、缶詰鶏肉を味見する時、低ナトリウム品は何時も選ばれない。塩が多いほど少ない物よりも常に食品は良く売れ、時間が経つにつれ塩の量は増えていくように思えるが、塩に対する耐性は時間経過で増加して行くのかどうか私には分からない。

元ニューヨーク・タイムズ食品・レストラン評論家シェラトン氏:レストランの料理で塩を制限してはいけない。全て一律に塩が有害であるという確固たる事実はない。基本的な昔からのレシピーで私は政府の命令による変化に反対する。多くの美味しい伝統的な成分が制限され、購買に懲罰税を課され、それによって調理文化遺産の大部分が破壊されることを心配する。

公益科学センター専務取締役ジャコブソン氏:塩の取り過ぎが高血圧を発症させ、やがて心臓発作や脳卒中を引起すことは学者間でほぼ一致している。塩は多分、食事の中で単一の最も有害な物質である。30年前、食品医薬品局が自発的な減塩を勧めたが失敗した。現在では当時よりも多くの塩を消費している。政府の減塩政策は妥当である。

バスチル大学栄養運動科学部教授カザクス氏:減塩の考え方は塩と関連した高血圧に関する個別の研究に基づいている。健康な人々までも含めて治療ガイドラインを広げる必要があるのだろうか?健康な食生活は何らかの一成分に固定することを意味しない。多くの果物・野菜を含む健康に良い総合的な食事をすることが最高の方法である。

公認栄養士アール氏:食事と健康に焦点を置いて改善しようとすれば、決定的な要素はカロリーと食事パターンで個別の栄養素ではない。食事摂取量と運動消費量との間のバランスが肥満を予防し、塩だけに焦点を当てるよりも慢性疾患の危険性に対して大きな利益を獲得できるだろう。一つの栄養素に集中するよりも全体的なアプローチを必要とする。

 

ワシントン・タイムズ

“減塩の効果”根拠なし

 2月17日付けの同紙にはアメリカ科学健康委員会の会長ウェラン女史が「塩に関する戦争宣言 ブルームバーグ市長悪辣な攻撃を始める」と題して寄稿している。内容を簡単に紹介しよう。
 『噂ではピザからポテトチップスまで何にでも塩を掛けるほど塩が好きな彼は、前述した5ヵ年の減塩計画で高血圧とその結果起こる心臓発作や脳卒中を予防することによって“数万人の生命”を救うと主張する。しかし、減塩が命を救う何の証拠も持っていない。市長が勧める健康運動の有効性と必要性に関して信用できない。塩をアスベスト並に危険な物質と公言しているように、彼は塩の危険性について誇張しているからである』
 記事の中で他者の意見を次のように述べている。『医者は注意深い食事の分析や減塩を勧めるが、この“少ない塩”勧告が効果を示すのは非常にわずかな人々であることが真実である。ほとんどの高血圧者は薬で血圧を管理する必要がある。国民レベルで食塩摂取量を減らすことにより“数万人”の死亡を防げるとのブルームバーグ氏の主張を裏付ける証拠はない。減塩が高血圧の低減に有効で、安全でもあることを示すデータを持ち合わせないで、全員に減塩を勧めることは、我々の全てを大規模で対照区のない実験に引き込むと思っている人々がいる。“私は予期しない結果についていつも心配している。”とアルダーマン博士は言う』

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 以上紹介したように、我が国でも減塩政策に対していろいろな意見がマスコミで報道されると良いのだが…。