たばこ塩産業 塩事業版 2009.1.20
塩・話・解・題 46
東海大学海洋学部非常勤講師
橋本壽夫
融氷雪剤の散布効果
安全確保作業費の18倍以上
冬期の積雪・結氷による通交阻害に対して、円滑な交通を確保し、事故防止を図るために融氷雪剤が撒布される。しかし、融氷雪剤の効果がどの程度なのかについては国内にはデータがない。融氷雪用塩の消費量が多いアメリカの塩協会ではきめ細かく使用基準を決めており、散布によってどれくらいの効果があるかも発表しているので紹介しよう。
気温と融氷能力の関係
融氷雪剤にはいくつかあり、通常の気象条件では主として塩が使われ、気温が下がってくると効果がなくなるので、塩化マグネシウムや塩化カルシウムが使われる。腐食が問題になるところでは尿素なども使われる。塩が融氷雪剤として使われ始めたのは1930年代であるという。
わが国の融氷雪用塩の使用量は気象条件に大きく左右されるが表1に示すように年々増加しており、地球温暖化で降雪量が少なくならない限り今後も増加し続けるであろう。アメリカでは年間1千万トンも使われており、塩がどれくらいの氷を融かすかを表2は示している。温度が低くなるほど融ける氷の量は少なく、効果がなくなっていくことが分かる。塩の飽和溶液の氷点-21.3℃との温度差が小さくなるためである。氷を融かす熱源は周囲の空気や道路からもらい、それらとの温度差が小さくなれば、融かせる氷量も少なくなる。このような場合にはより低い氷点降下を示す塩化マグネシウムや塩化カルシウムに代える。なお、以後の表でも同じであるが、原表の単位表示は、温度が華氏で重さ距離はポンド、マイルであったので換算した。
表1 融氷雪用塩の消費量 (万トン) | ||||||
年 | 1997 | 1998 | 1999 | 2000 | 2001 | 2002 |
消費量 | 20.8 | 23.6 | 28.9 | 35.1 | 35.9 | 45.1 |
年 | 2003 | 2004 | 2005 | 2006 | 2007 | 2008 |
消費量 | 47.5 | 55.5 | 65.5 | 43.1 | 51.7 | |
財務省たばこ塩事業室発表「塩需給実績」より |
表2 塩 1kg の融氷能力 | |||||||
温度 (℃) | -1 | -4 | -7 | -9.5 | -12 | -14.8 | -17.3 |
融氷量 (kg) | 46.3 | 14.4 | 8.6 | 6.3 | 4.9 | 4.1 | 3.7 |
Salt Institute資料 Snowfighter's Handbook 2007より |
融氷雪用塩の使用量
実際に散布される量は表3を基準としている。表2から分かるように寒くなるほど多くの塩が散布される。散布量は車線1 km当たりの重量で示されている。車線の幅を4 mとすれば1m2当たり20〜40 gとなる。
表4には融氷雪剤の種類による使用量の違いを比較した。塩化ナトリウム(塩)を基準として塩化マグネシウムと塩化カルシウムについて、水分を含む固形と溶液で示されている。
固形の場合には使用量に大きな差はないが、溶液の場合には塩化ナトリウムの溶解度が小さく濃度が薄いので、使用量は多い。
表3 塩化ナトリウムの散布量 | ||||||
道路温度 (℃) | 0以上 | 0 - -1 | -1 - -4 | -4 - -7 | -7 - -9.5 | -9.5 - -12 |
散布量(kg/km車線) | 70.9 | 92.2 | 113.5 | 134.8 | 156.1 | 177.3 |
Salt Institute資料 Salt & Highway Deicing Summer 2004より抜粋 |
表4 融氷雪剤の散布量比較 | ||||||
温度 (℃) | 塩化ナトリウム | 塩化マグネシウム | 塩化カルシウム | |||
100%固形 | 23%溶液 | 50%固形 | 27%溶液 | 90-92%固形 | 32%溶液 | |
kg/km車線 | ?/km車線 | kg/km車線 | ?/km車線 | kg/km車線 | ?/km車線 | |
0 | 28.4 | 106.9 | 25.8 | 73.6 | 31.3 | 76.0 |
-1 | 28.4 | 114.0 | 27.0 | 78.4 | 30.7 | 78.4 |
-2 | 28.4 | 123.5 | 26.1 | 78.4 | 31.3 | 80.8 |
-4 | 28.4 | 135.4 | 28.4 | 83.1 | 29.3 | 80.8 |
-5 | 28.4 | 154.4 | 29.3 | 99.8 | 31.6 | 97.4 |
-7 | 28.4 | 166.3 | 28.1 | 99.8 | 31.0 | 99.8 |
-9.5 | 28.4 | 285.0 | 27.3 | 111.6 | 29.0 | 116.4 |
-14.8 | 28.4 | 391.9 | 27.5 | 121.1 | 30.0 | 135.4 |
Salt Institute資料 Salt & Highway Deicing Summer 2004より |
散布後1時間で効果
図1は融氷雪用塩の散布効果を表している。縦軸は1千万台km当たりの事故率で、横軸の時間0の塩散布前後で事故率がどのように変わっていくかを表している。左側の散布時より12時間前には積雪はなく2台程度の事故率であるが、降雪が始まり積雪量が増加するにつれて事故率は5倍程度まで上昇する。しかし、塩散布を始めて1時間も経つ間に事故率は急速に減少して、ほぼ積雪のない元の状態にまで低下している。自動車、橋梁の腐食や環境に対する損害といった融氷雪用塩散布に伴う全ての費用を計算しても、使用の効果はこの公共の安全性を確保する作業費の18倍以上になる、とこの結果を評価している。