たばこ塩産業 塩事業版 2004.01.20
Encyclopedia[塩百科] 30
(財)ソルト・サイエンス研究財団専務理事
橋本壽夫
食事による高血圧予防とは?!
年の初めはどうしても飲んだり食べたりすることが多く、その上テレビに釘付けになり、気にしている体重が増えてしまう。体重増加は高血圧予防にとってはマイナス要因である。減食減量よりも普段からの運動により体力を付け基礎代謝量を大きくし、寝ているときでもカロリー消費量が大きくなるようにしておくことが重要。ところで、医食同源という言葉にもあるように食事で医療効果を発揮させ疾患予防・治療を図ることも重要である。高血圧予防ではDASH食が勧められている。それはどのような食事か、アメリカでは日本食が健康食と言われて人気がある。欧米食と何が違うのであろうか。
@ 高血圧予防のDASH食
DASHとはDietary Approaches to Stop Hypertensionの略語である。つまり「高血圧にならないようにする食事方法」である。そのための食事内容がDASH食と言われている。具体的には野菜・果物を多く食べ、さらに低脂肪乳製品を多く食べることである。それがどの程度なのか、試験食を表1に示す。
表1 食品の一日平均給食量とその中の栄養目標値と分析値* 参考値として日本の現状を追加 |
項 目 |
コントロール食 |
果物・野菜食 |
組合せ食(DASH食) |
2000年の 日本調査値 |
|
栄養目標 |
分析値 |
栄養目標 |
分析値 |
栄養目標 |
分析値 |
栄 養 素 |
|
|
|
|
|
|
1947 kcal |
脂肪(総kcalの%) |
37 |
35.7 |
37 |
35.7 |
27 |
25.6 |
26.6 |
飽和 |
16 |
14.1 |
16 |
12.7 |
6 |
7.0 |
一価不飽和 |
13 |
12.4 |
13 |
13.9 |
13 |
9.9 |
多価不飽和 |
8 |
6.2 |
8 |
7.3 |
8 |
6.8 |
炭水化物(総kcalの%) |
48 |
50.5 |
48 |
49.2 |
55 |
56.5 |
54.6 |
タンパク質(総kcalの%) |
15 |
13.8 |
15 |
15.1 |
18 |
17.9 |
16.0 |
コレステロール(mg/day) |
300 |
233 |
300 |
184 |
150 |
151 |
繊維(g/d) |
9 |
NA |
31 |
NA |
31 |
NA |
カリウム(mg/d) |
1700 |
1752 |
4700 |
4101 |
4700 |
4415 |
マグネシウム(mg/d) |
165 |
176 |
500 |
423 |
500 |
480 |
カルシウム(mg/d) |
450 |
443 |
450 |
534 |
1240 |
1265 |
547 |
ナトリウム(mg/d) |
3000 |
3028 |
3000 |
2816 |
3000 |
2856 |
4843 |
食品グループ(給仕回数/日) |
|
|
|
|
|
|
果物とジュース |
1.6 |
|
5.2 |
|
5.2 |
|
野菜 |
2.0 |
|
3.3 |
|
4.4 |
|
穀類 |
8.2 |
|
6.9 |
|
7.5 |
|
低脂肪乳製品 |
0.1 |
|
0.0 |
|
2.0 |
|
通常脂肪乳製品 |
0.4 |
|
0.3 |
|
0.7 |
|
ナッツ、種、豆 |
0.0 |
|
0.6 |
|
0.7 |
|
ビーフ、ポーク、ハム |
1.5 |
|
1.8 |
|
0.5 |
|
家禽 |
0.8 |
|
0.4 |
|
0.6 |
|
魚 |
0.2 |
|
0.3 |
|
0.5 |
|
脂肪、油、ドレッシング |
5.8 |
|
5.3 |
|
2.5 |
|
スナックと甘い物 |
4.1 |
|
1.4 |
|
0.7 |
|
*値は2100 kcalのエネルギー水準で設計された食事内容; NA:分析せず |
Appelら、 New Engl J Med 1997;336;1117 |
コントロール食と野菜・果物食を比べると、食品グループで野菜・果物が増え、ナッツ・豆類が増え、穀類がわずかに減り、スナックと甘い物を相当減らしている。これを栄養素で見ると、野菜・果物に由来するカリウムが大幅に増え、繊維も増えている。ナトリウムとカリウムの摂取量比は1:1が良いと言われているが、コントロール食の0.57倍から1.57倍となっている。またナッツ・豆類に由来するマグネシウムが増えていることが分かる。
ナトリウムは3種類の食事とも目標としては同じにしてあるが、分析するとわずかに違っている。この食事により減塩をしなくても血圧を下げられる。その様子をアペルらは図1に表した。コントロール食(■)よりも、野菜・果物食(+)の方に降圧効果があることを示している。
この食事に低脂肪乳製品を付加した組合せ食(○)にすると一層大きな降圧効果が図1で現われている。この場合の食品グループを見ると、野菜・果物食より低脂肪乳製品を増やしているが、脂肪・油等は減らしており、野菜、穀類はわずかに増やしているが、肉類は減らし魚を増やし、甘い物をさらに減らしている。
これを栄養素で見ると、乳製品に由来するカルシウムが大幅に増え、飽和脂肪、コレステロールが大幅に減っていることが分かる。
カルシウムの増加が血圧低下に寄与しているものと考えられる。
A 血圧低下効果に個人差
ムーアらは24時間血圧計でDASH食の効果を調べ、図2に示すように血圧低下に対するDASH食の有効性を報告している。
さらに最高血圧だけが高い被験者で野菜・果物食とDASH食の血圧低下効果を図3に示した。
果物・野菜食に比べて組合わせDASH食は明らかに大きな血圧低下効果があることが分かる。
しかし、個人別に見ると図4のようにかなり個人差があり、わずかであるが効果が反対に現われる人もいる。
サックスらは、これに減塩を取り入れた場合の30日後の血圧低下効果を図5のように示した。
減塩すればさらに血圧低下効果はあるが、DASH食ほどには大きな低下効果を示していない。コントロール食よりもDASH食では減塩より降圧効果が小さくなることが現われている。
ここで食塩摂取量に高、中、低とあるが、高はアメリカ人の現状摂取量で8.7 gの食塩に当たる。
中は推奨値の上限値で5.8 gに当たる。低は目標値で2.9 gに当たる。
日本では現状の摂取量が約12 g強とはるかに高いため参考にはなりにくい。また、ここまでの減塩はとうてい不可能であろう。
日本の食塩摂取量でどのような降圧効果を示すか研究データが欲しいところである。
B 平均寿命と減塩は無関係?!
日本食と欧米食の大きな違いは肉食、乳製品の摂取量にあるのであろう。沖縄では男女とも平均寿命が全国1位であったのに、2000年では男性だけは26位にまで低下している。
また、平成7年から12年までで沖縄男性の平均寿命の延びは0.42歳で47位である。60歳以下の年齢では、戦後の米軍駐留による欧米食の影響が強く現われ、また肉体労働も少なくなったためとされている。
一方、長野県は男性の平均寿命が1位となっている。多分、長野県の方が日本食寄りであろうし、肉体労働が多いからとされている。
日本食は米、野菜、豆類、魚介類、海草が中心である。他にもいろいろな物を食べる習慣がある。
参考までに比較のため表1に2000年度の国民栄養の現状から利用できるデータを併記した。エネルギー摂取量は7%ほど少ない。
脂肪と炭水化物の摂取量%はDASH食に近く、タンパク質の%がわずかに低い。カルシウムは半分以下であり、ナトリウムは60%ほど多い。カリウム、マグネシウムのデータがないので何とも考察できないのが残念である。
欧米に比べ果物や乳製品を食べる量が少ないかも知れないが、その代わり野菜や大豆製品を多く食べる。特に野菜や芋類の煮付け、煮物、いろいろな物を入れて食べられるみそ汁などを食べる現在の食習慣は、案外DASH食に近い栄養組成になっているのかも知れない。
しかし、食生活が外食やコンビニ食の普及、欧米食化が進行すれば、日本食の良さが薄れ、平均寿命にも影響を及ぼしてくることになろう。
国民栄養の現状でDASH食に取り上げられているような栄養素のデータも追加して充実を図ってもらえると、食生活を総合的に考察した保健政策を進められるようになる。
食塩摂取量を減らすことだけが目標になっているが、平均寿命との関係で見ると、アメリカでは2000年で男性が74.1歳、女性が79.5歳、日本では男性が77.7歳、女性が84.6歳である。沖縄が長寿である理由に食塩摂取量が少ないことが上げられるが、沖縄男性の平均寿命の大きな変動から考えても、とても食塩摂取量だけが大きな要因となっているとは考えられない。
保健行政としては、もっときめ細かいデータ収集・整理と要因解析を行ってもらいたい。
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