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たばこ塩産業 塩事業版 2000.10.25
塩なんでもQ&A
(財)ソルト・サイエンス研究財団専務理事
橋本壽夫
日本は世界一の“塩輸入大国”
「日本は世界一の塩輸入国であり、実に需要量の85%を輸入しています。」─この夏、子供の社会科の勉強につきあっていて、日本の塩作りの実態などを初めて知りました。日本では海水から塩を作っていて、しかも周囲を海に囲まれているので、塩の自給率は少なくても50%は越えているだろうと思っていたら、実際は随分低い数値なのですね。輸入されている塩は安価と言うことですが、海外から船で運んでくる運賃を含めても安いのでしょうか?また、輸入塩は工業用に使われているとのことですが、国産の塩が高いということなら、例えば日本でも少し品質を落として安い塩というものは作れないのでしょうか?
(岐阜県・主婦)
日本の塩消費量は年間約950万トンで、大半が工業用です。この中で食用は140万トン程度です。食用程度の数量は国内で生産しておりますので、自給率が15%となり、85%はご質問の通り輸入されていることになります。工業用の用途はほとんどソーダ工業で、カ性ソーダ、塩素、炭酸ソーダを作るために使われます。これらは化学工業の基礎物資ですから安くないと困ります。塩はそれらの原料物資ですから当然安くなければなりません。高い輸送費をかけても日本が世界一の塩輸入国であるのは特殊な事例です。
日本の輸入30%占める
─世界の塩貿易量─
塩は重量単価当たり重くてかさばる商品であるために、工業原料や融氷雪剤としての塩は長い距離を輸送することなく産地の周辺で消費されます。したがってアメリカのように広大な国では国内で100%自給できる生産力を持っていますが、輸送費をかけて国内に配送するよりもカナダやメキシコの隣国から輸入する方が安いので、表に示しますようにアメリカとカナダはお互いに塩を輸出したり輸入したりしています。これは西ヨーロッパでも同じです。日本以外で数量が大きく変動しているところがありますが、これは主として冬場の融氷雪用に使われる塩消費量の変動によるものです。積雪が多かったり厳しい寒さが長く続く年には多くの塩が消費量されますので、貿易量も増えます。
塩の国際貿易量 (千トン) |
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年 |
1980 |
1984 |
1988 |
1992 |
1995 |
日本の輸入量 |
7,477 |
6,458 |
7,229 |
7,687 |
8,063 |
アメリカとカナダの輸入量 |
3,043 |
4,222 |
2,638 |
3,320 |
4,559 |
アメリカとカナダの貿易量 |
2,468 |
3,675 |
3,029 |
3,230 |
3,831 |
スカンジナビア諸国の輸入量 |
2,606 |
2,631 |
2,631 |
2,062 |
2,282 |
その他西ヨーロッパ内の貿易量 |
2,751 |
2,584 |
2,953 |
3,309 |
3,836 |
その他貿易量 |
1,146 |
1,316 |
10,525 |
8,620 |
6,553 |
総貿易量 |
19,491 |
20,886 |
29,004 |
28,228 |
29,124 |
※ロスキル情報サービス社の「1997年の塩経済」より |
スェーデンやノルウェーのような北欧3国は国内で塩が生産されておりませんので、全量輸入しております。オランダ、ドイツ、イギリス、スペインといった近くの国々が多くの塩を生産していますので、安い輸送費で輸入は容易です。
日本は、塩を輸出しているメキシコやオーストラリアからは非常に遠く離れています。それにもかかわらず、世界の塩貿易量の30%もの塩が日本に輸入されているのは、日本が工業国で、需要が多いからです。日本の塩輸入量は図に示すように1960年代には急速に伸びました。その後はわずかずつ増えております。当然のこととして自給率はそれに応じて下がってきております。日本に工業用の塩を輸出するためにメキシコやオーストラリアで大規模な塩田が開発された昭和40年代半ば(1970年頃)までは、遠くスペインからも輸入されていました。
レートにより大幅変動
─塩の価格─
輸入塩の価格はFOB(塩の積み出し港で船積みした塩の価格)とCIF(塩が輸入された港における塩の価格で、FOB、運賃、保険料が含まれる)がありまして、その差が運賃と考えられます。メキシコやオーストラリアからは運賃を安くするために大型で専用の輸送船が建造され、一度に10万トン以上もの塩が運ばれてきます。塩の価格は1トン当たりCIFで35-40ドルですが、日本円にするとレートによって大幅に変動します。円高で安く輸入できるのは他の物資の輸入と同じです。この価格のざっと半分が運賃ですが、10年ほど前から運賃の方が高くなり、その差は大きくなる傾向にあります。
ソーダ工業で消費される時点の価格は、船からの荷揚げ費、横持ち輸送費、一次精製費、二次精製費が上積みされます。したがって、ソーダ工業の原料として使用する直前の塩価格がどれくらいになるかが、何処の塩を使うかの判断材料の一つとなります。
輸入塩に比べると日本で作られる塩の価格はまだまだ高く、ソーダ工業用の原料としては使えません。
各国ごとに異なる純度
─工業用塩の品質─
工業用塩の純度は生産地で海水や飽和塩水で洗浄されてきますのでかなり高くなっており、メキシコ、オーストラリア産の塩は水分込みで97%以上と国内で生産されている塩の純度に近くなっております。インドや中国産の塩は1%ほど悪くなっております。工業用塩では、カルシウムやマグネシウムなどの不純物が少ないほど精製費が安く済みますので喜ばれます。国内で生産された塩でも精製して使わなければなりません。このようなことから品質を落とすことは嫌われます。また、国内塩は品質を落とせば格段に安くできるというものでもありません。
ソーダ工業では塩を溶かして使いますので、海水からイオン交換膜透析法で作られたかん水(濃い塩水)でも使えるのではないかと考えられます。むかしの製法であるアスベスト隔膜法では使えましたが、現在のイオン交換膜法では個体の塩にしなければ使えません。したがって、熱エネルギーを使って水を蒸発させ固形塩としますので、どうしてもコスト高になってしまいます。
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