高血圧予防における塩摂取量の役割
Role of Sodium Intake in Preventing Hypertension
By Crystal Wong
Endocrinology Advisor 2016.10.18
血圧と塩摂取量:確立した関係
塩摂取量と血圧との関係は過去30年間に数多くの臨床研究によって確立されてきた。関係は過剰な塩摂取量と高血圧との間で最強の関係であるが、減塩もまた“高めの”または前高血圧者の血圧を下げる。
DASHナトリウム(高血圧予防食)を含むいくつかの研究は、1日当たり3.8 g以下まで低くする減塩は血圧をかなりの程度まで下げることを示した。アメリカ心臓協会は心臓血管疾患の予防に役立てるために3.8 g/d以下に塩摂取量を維持することを勧めている。
しかし、減塩による血圧低下が心臓血管疾患発症や総死亡を改善するかどうかは不明である。“死亡に及ぼす塩摂取量、特に低い塩摂取量の効果に関して多くの論争がある。減塩は血圧を明らかに改善するが、必ずしも全ての研究が心臓血管疾患または死亡についての利益を見出してはいない。”とボストンのブリンガム婦人病院のナンシー R. クックはインタビューで語った。
その点まで、過剰な塩摂取量は心臓血管疾患の危険率を上昇させるが、驚くべきことに、非常に低い塩摂取量も心臓血管疾患や死亡の増加と関係していた。対照的に、高血圧予防試験からの19 - 15年間の追跡調査データを評価した研究は、最低の塩摂取量が最低の心臓血管疾患危険率と関係していることを示した。
塩摂取量と総死亡との関係を調べるために、クック博士と同僚達は高血圧予防試験のⅠとⅡからの長期間死亡データを調査した。彼らの結果はJournal of the American College of Cardiologyに最近発表された。
高血圧予防試験における長期間の死亡
高血圧予防試験Ⅰでは、1,744人の参加者が18ヵ月間、積極的な減塩または通常食にランダムに割り当てられた。高血圧予防試験Ⅱでは、2,382人の参加者が36 – 48ヵ月間、減塩、減量介入、減塩と減量の組合せ、通常食で処理された。両研究とも、尿中ナトリウム排泄量と血圧は通常食と比較して減塩食グループで有意に低いことを明らかにした。
現在の試験では、ランダム化後に23 – 26歳の死亡データが高血圧予防試験の参加者で集められた。高血圧予防試験Ⅰで減塩食と通常食で処理された参加者の死亡率はそれぞれ10.1%と10.6%であった;高血圧予防試験Ⅱではそれぞれ6.9%と7.7%であった。減塩介入を受けた参加者で有意でないにもかかわらず、これは死亡率を15%下げると言い替えられた。
24時間尿中ナトリウム排泄量によって測定された塩摂取量は直線的ではあるが有意ではなく死亡と直接的に関係していた。ナトリウム排泄量で1000 mg/24-h毎の増加は死亡率の増加と関係していた。“塩摂取量と死亡との間に直接的な直線関係を明らかにしたが、それは高塩摂取量で死亡が最高で、低塩摂取量で最低であることを意味していた。高血圧と心臓血管疾患の両方で適塩の利益を前に明らかにしていたので、驚くことではなかった。”とクック博士は言った。
低塩摂取量:有益または有害?
クック博士と同僚達は塩摂取量と死亡との間に直線関係を明らかにしたが、観察研究やメタアナリシスからの最近のデータは、非常に低い塩摂取量は心臓血管疾患や死亡の危険率を実際に増加させるかもしれないことを示唆している。したがって、塩摂取量と死亡との関係はU字型かもしれない。
“過去5年間の数多くの研究は1日当たり7.6 – 12.7 gと言う人口の平均塩摂取量と比較して、7.6 g以下の低塩摂取量は総死亡や心臓血管疾患発症の増加した危険率と関係している。この結果はナトリウム摂取量を推定する異なった方法を使用した多くの研究で繰り返されてきた。”と関連した論説の主筆であり、カナダのハミルトンにあるマックマスタ―大学のアンドリュー・メンテ博士はインタビューで言った。
しかし、長期間の高血圧予防試験解析は直線関係について強力なエビデンスを提供していることをクック博士は主張した。“高血圧予防試験では、我々は通常のナトリウム摂取量と言う非常に良く特徴付けられた方法を使った。それは他の研究で使われた方法よりもずっと正確である。”と彼女は述べた。高血圧予防試験は24時間尿中ナトリウム排泄量を用いてナトリウム摂取量を調査し、それは患者当たり何回も採尿するので黄金の標準法として考えられている。対照的に、ナトリウムと臨床結果を調べた他の研究はアンケート、食事日記、誤差や偏りがあるので好ましくないとされているスポットの尿試料で塩摂取量を測定した。
“高血圧予防試験データを使用した解析はより正確であまり偏向のない推定値を与えると我々は感じる。したがって、塩摂取量を最低レベルまで減らすことは心臓血管疾患と同様に死亡について利益を得るように思えると結論できるが、最低レベルは達成困難である。”とクック博士は述べた。
しかし、20年間の高血圧予防試験死亡解析は、人口の平均塩摂取量と比較して減塩が有益であることを示していない、とメンテ博士は主張した。“現在勧められている1日当たり5.8 gの減塩は、心臓血管疾患または死亡を減らすことで1日当たり7.6 – 12.7 gと言う中程度の塩摂取量よりも優れている、とする研究からのエビデンスは高血圧予防試験研究を含めて現在のところない。事実、データを全体的に見ると中程度の減塩が最適であることを示している。”と彼は言った。
どうして中程度の減塩が理想的であるかもしれないかと言う説明をメンテ博士はした。“非常に低い塩摂取量は有害かもしれないことについての基本的な生物学的説明は、ある量以下の摂取量はレニンーアンジオテンシン系のようなホルモン系を活性化するかもしれず、これまでの研究から我々はそれが有害であることを知っているからである。中程度の塩摂取量は血圧低下とレニンーアンジオテンシン系を活性化させると言う有害な影響を避けることとの間の正しいバランスを打ち壊すかもしれない。”と彼は言った。
これからの研究
減塩と臨床結果との間の関係を取り巻く論争に照らして、高血圧予防試験の長期間死亡の解析からどんな結論が引き出せるか?クック博士と同僚達は、高塩摂取量が死亡増加と関係していることを明らかにした。この研究と他の研究で観察された直線関係に基づくと、低塩摂取量はより良い結果と関係しているとも彼等は結論を下した。クック博士によると、“これらの結果は、加工食品の減塩に関する食品医薬品局からの最近のガイダンス案と同様に、アメリカ心臓協会やアメリカの食事ガイドラインの減塩勧告を支持している。”
メンテ博士も高い塩摂取量の人々は減塩すべきであることに同意した。“高い塩摂取量は有害であることに誰もが同意している。どれ位が高いかについては明らかでない。”とメンテ博士は言った。幅広く集団に減塩を勧告する前に、心臓血管疾患や死亡を減らすことにおける低塩摂取量対中塩摂取量の明らかな利益を示す必要があることを彼は指摘した。“このためには、長期間の臨床結果をもたらす大規模なランダム化比較試験をする必要がある。”と彼は言った。結局、長期間の臨床結果を改善する生活様式の手段としてメンテ博士はバランスの取れた食事をすることを勧めた。“果物、野菜が多く健康に良い食事を一生懸命し、加工食品や甘い食品を減らせば、塩のような単一の食品について心配する必要はない。”と彼は言った。