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塩の科学を理解するための解説

Commentary on Making Sense of the Science of Sodium

By Anderson, Cheryl A.M., Johnson, Rachel K., Kris-Etherton, Penny M., Miller, Emily Ann

Nutrition Today 2015.04

 

要約

 減塩は心血管疾患危険率を下げるための健康的な食事パターンの重要な要素である。数多くの権威のある科学団体や専門保健機関は人口塩摂取量勧告値を提出してきており、それらの全ては現在の平均アメリカ人の塩摂取量であるはぼ8.9 g/dよりも低い少なくとも2.5 g/dである。最近の研究はこれらの勧告値に疑問を呈している。多くの方法論的問題がその理由で、塩摂取量と健康結果との関係を調べた観察研究で矛盾していた。保健と栄養の専門家達は、設計の強弱の研究と矛盾する結果をもたらす研究を含めて、全てのエビデンスの重み付けをした後に公衆保健勧告値は作られることを考慮しなければならない。

 

ナトリウムと保健

1 ナトリウム摂取量の推奨値

発表機関

報告書

ガイドライン、mg/d

備考

国  内

 

 

 

アメリカ心臓協会とアメリカ心臓病専門学校

2013年の心血管危険率低下のための生活様式管理に関するガイドライン

2,400 mg以下             1,500 mgは大きな血圧低下をもたらす

これらの目標値を達成しなくても、ナトリウム摂取量を少なくとも1,000 mg/dまで下げると血圧は下がるともガイドラインは述べている。

医学研究所

2004年ナトリウムの参考摂取量

1,500 mg-十分な摂取量        2,300 mg-上限

 

アメリカ合衆国保健福祉省とアメリカ農務省

2010年のアメリカ人の食事ガイドライン

2,300 mg                51歳以上とアフリカ系アメリカ人または高血圧、糖尿病、慢性腎臓疾患者の全ての年齢の人々では1,500 mg

 

国  際

 

 

 

オーストラリア-国民保健医療研究会議とニュージーランド保健省

2006年の推奨食事摂取量を含むオーストラリアとニュージーランドの栄養摂取量参考値

460 - 920 mg 十分な摂取量        2,300 mg -上限

 

イギリス-国立医療技術評価機構

2010年の公衆保健ガイダンス-人口レベルの心血管疾患予防

2015年までに2,400 mg                    2025年までに1,200 mg

 

世界保健機関

2012年のガイドライン:成人と子供のナトリウム摂取量

●<2,000 mg

WHO16歳以上として成人を分類

アメリカ人の平均ナトリウム摂取量(2歳以上の人口)3,478 mg/d-どの推奨値よりも少なくとも1,000 mg/d多い

 血圧と関連した疾患(例えば、冠状心疾患、脳卒中、心不全、慢性腎臓疾患)は世界中で罹患率と死亡率の主要因である。過剰な塩摂取量と高血圧との強い関係は減塩を勧める根拠を形成している。多くの権威ある科学団体と専門的な保健機関は現在の人口の塩摂取量勧告値を発表し、それらの全ては8.8 g/dと言うアメリカ人の平均塩摂取量よりも少なくとも2.5 g/d低い。

 

 塩摂取量勧告値は動物研究、疫学研究、臨床試験、そして塩摂取量の悪い保健効果を示す試験のメタアナリシスからの結果に基づいている。3.8 – 5.8 g/dの範囲の塩摂取量を評価する給食研究は血圧低下効果を示す。その関係は直接的で進歩的であったが、非線形であることも示している。例えば、塩摂取量が高い初期の塩摂取量から所定の量まで下げられたときと比較して、初期の塩摂取量が低いときに、所定量まで減らされた塩摂取量は一層血圧を下げられる。血圧に及ぼす減塩の長期間効果を評価した幾つかの研究は減塩介入した人々でほとんど心血管疾患そして/または死亡率について一定の傾向を示した。

 血圧に及ぼす減塩の影響は高血圧者で大きいが、高血圧者でない範囲の正常血圧者でも有益である。GenSalt給食研究とDASH(高血圧予防食)ナトリウム研究は臨床的に高血圧と定義されない人々で減塩の血圧低下効果を示した2つの試験である。さらに、減塩の効果は若者の研究参加者よりも高齢者で大きく、DASH-ナトリウム試験では、DASH食のような良い食事品質に連携して減塩したとき、その効果は大きくなる。

 塩摂取量と血圧の逆相関を観察した研究に加えて、権威ある科学団体と専門的な保健機関により勧められている範囲の塩摂取量は高塩摂取量よりも有害であることを他の研究は示唆してきた。これらの研究は多くの究やランダム化臨床試験からの結果と一致していない。さらに、これらの逆の結果についての可能な説明は自己申告、逆因果関係、そして血圧に影響する総キロカロリー摂取量または他の栄養素についての調整不足をあてにした評価手段からの測定誤差を含んでいる。

 血圧に及ぼす塩摂取量の効果に関する強い科学に加えて、過剰な塩摂取量は腎臓結石、喘息、骨粗鬆症、そして胃ガンとも関係している。高い塩摂取量は自己免疫疾患発症の危険因子であるかもしれないことを新たな研究は示唆しており、予備研究は高い塩摂取量と肥満増加や健康な青年の炎症、カロリー摂取量と無関係であることとも関係していた。

 

どうして全員に減塩させるのか?

 高血圧はほぼ7,800万人のアメリカ成人(3人に1人)とアフリカ系アメリカ人の40%以上に影響を及ぼす大きな公衆保健問題で、影響を受けた人々の約半分は高血圧を治療していない。高血圧に関連した疾患の負担を軽くすることは、診察された高血圧を治療し、将来、高血圧にならないように貧しい食事のような人口の高血圧の根源的な原因と取り組むことの両方の総合的なアプローチを正当化する。

 2歳以上の人々についてアメリカ合衆国の平均塩摂取量は8.8 g/dで、専門家グループが設定したどの勧告値よりも少なくとも2.5 G多い。

 血圧低下で利益を得るアメリカ合衆国の人々の数がかなり多いとすると、アメリカ人口の減塩は広く行きわたった利益をもたらすものと期待されている。中年以上の人々やアフリカ系アメリカ人と同様に高血圧、糖尿病、慢性腎臓疾患の人々は健常人、若者、白人よりも減塩に対して大きな血圧応答を示す傾向である。これらの人口は2歳以上のアメリカ人口の約50%を示す。さらに、過剰な塩摂取量の血圧上昇効果は肥満者でより著しく、彼等はアメリカ成人の約70%と子供/若者の32%をそれぞれ構成している。さらに、減塩は加齢に伴って生ずる血圧上昇をかなり鈍らせる。全アメリカ人の90%が生涯で高血圧を発症すると予想されることを考えると、コクラン・レビューは重要である。

 

医学研究所の2013年報告書:言っていることと言っていないこと

 人口の塩摂取量に関する2013年の医学研究所(IOM)報告書は、塩摂取量、特に3.8 – 5.8 mg/dの塩摂取量の健康結果に関する潜在的な有益効果と有害効果に関して2003年以後発表されたエビデンスを調べた。調べた健康結果は心血管疾患、心不全、心筋梗塞、糖尿病、死亡、脳卒中、骨疾患、骨折、転倒、頭痛、腎臓結石、皮膚反応、免疫機能、甲状腺疾患、ガンを含むが、血圧のような中間結果を含まない。血圧は健康結果についての受け入れられる代替指標ではないと医学研究所委員会は結論を下しておらず、血圧は2010年医学研究所報告書で正当な代替指標として特性付けられた。食品医薬品局も心血管疾患危険率の増加についての貴重な生物指標として血圧を認識している。

 医学研究所報告書は大きな関心と論争を引き起こし、幾つかの新しい物語はその結論について不正確性と誤解を含んでいた。減塩は不必要か有害であり、そのことは消費者に混乱を与えているようだ、と幾つかの物語は示唆した。幾つかの委員会メンバーによって書かれた論評がアメリカ医学協会誌に発表され、報告書からのキーポイントを次のように要約した:

● 5.8 g/d以上の塩摂取量と心血管疾患危険率との間にポジティブな関係があり、現在の人口塩摂取量を減らす努力を支持している。

● 塩摂取量と心血管疾患結果との関係は幾つかの研究で血圧について調整後に主張され、他の要因(カリウム摂取量のような)は関係を媒介していることを示唆している。

● 直接的な健康結果に関する研究は、5.8 g/d以下の塩摂取量が心血管疾患の危険率を大きくするか小さくするかに関係しているかどうかに結論を下すには品質的に矛盾しており、量的に不十分であった。この声明はさらに減塩を勧める利益はないことを伝えていない;これらの摂取量と直接的な健康結果についてもっと決定的な結論が引き出される前に、むしろより品質の良い研究が必要とされる。全体的な人口と様々な健康状態(例えば、糖尿病や慢性腎臓疾患)の人々で3.8 – 5.8 g/dの塩摂取量と直接的な健康結果との関係を決定するための研究が必要である。

 医学研究所委員会は目標とする塩摂取量を明らかにすることを課題にされていなかったが(そして報告書は、利用できるデータの異質性で委員会は目標値を明らかにしないことを説明した)、その報告書はこの話題に関する論争に火を付けた。これらの論争はエビデンス基準の全体性に関する焦点の重要性を強調した:アメリカ人はどの公衆保健勧告値よりも多くの塩摂取量であり、現在の摂取量を下げることは血圧と心血管疾患に関する利益を提供する。

 

塩摂取量と心血管疾患との間のJ字型関係は観察研究の方法論的限界に由来する

 最近発表された観察的な疫学研究は、5.8 g/d以下の塩摂取量が特に幾つかの健康状態(例えば、糖尿病や慢性腎臓疾患)の人々で悪い結果の危険率を増加させるかもしれないことを示唆している。これらの結果は、勧告されている塩摂取量目標値と最終的には現在の水準から何らかの低下の重要性について公衆保健界や医学界のある人々の間で意見の相違を導いてきた。

 観察研究の結果を解釈することは難しい。研究は集められた(と集められなかった)データや統計的な解析法のタイプに関して高度に依存していたからである。例えば、スポットの尿試料を分析して塩摂取量を調査した最近の大規模な観察研究は、7.6 g/d以下の塩摂取量の死亡と心血管疾患の大きな危険率を明らかにし、一方、多数の24時間尿収集による塩摂取量を調査した別の最近の長期間追跡研究は7.6 g/d以下の摂取量の心血管疾患の危険率低下を明らかにした。

 多くの方法論的問題が塩摂取量と心血管疾患との関係を調べた観察研究の結果の矛盾を説明しているかもしれない。それらの多くは塩摂取量と心血管疾患との関係をテストするように特に設計されていないデータセットを使っている。鍵となる問題は次のことを含んでいる:

  スポット尿試料のような信頼できない塩摂取量測定法の使用。一回の尿試料は十数年後に生ずる健康結果を予測する理想的な方法ではない。日々の塩摂取量で個人の変動や昼間の塩排泄量のために、多数の24時間尿収集は塩摂取量調査の基準法である。これらの収集は研究者や研究参加者に大きな負担をかけるので、質の悪い測定法がしばしば使われる。食事摂取量が知られている厳密に管理された設定での尿中塩摂取量に大きな変動があることが最近のエビデンスで示唆されており、精度を上げるために多数の24時間尿試料を使うことの重要性を過少評価している。

  逆因果関係すなわち、減塩する医者の命令に応じて減塩したかもしれない、または医療結果として、または彼等の疾患状態のために全体的に食事/カロリー摂取量を減らした病人を含める。これらのグループの低塩摂取量は悪い健康結果の原因にはならないかもしれない;その代わり、低塩摂取量は依存する状態によって促進される。

  低塩食は心疾患で死ぬ機会を増加させるという結論を決定的に支持する心血管疾患の数は不十分。

 方法論的問題は一般的である。直接関係、逆関係、無関係、塩摂取量と心血管疾患とのJ字型関係と言う混合した関係を明らかにした26件のコホート研究で方法論的問題の経験的な解析は研究当たり平均3 – 4件の方法論的問題を検出した。これらの研究の多くは、約6.4 g/d以下の塩摂取量は健康危険率を増加させると結論を出したメタアナリシスに最近含められたが、平均的に品質の悪い研究は品質を改善せず、または強く影響しない。

 方法論的な関心は食事勧告値の設定でこれらの観察研究の有効性を制限する。人口の代表的な試料で上手く設計されたコホート研究が利用できるようになるまでは、塩摂取量と血圧上昇を関係させたエビデンスと心血管疾患に関する全人口の減塩試験はほとんどないことに基づいて塩摂取量の勧告値を設定することは適正である。

 可能性に関する関心は、現在の平均摂取量から3.8 – 5.8 g/dの範囲の勧告値へ減塩した結果として改善した健康結果を示すランダム化比較試験がないことを説明している。臨床的な終焉を調べる試験はあまりにも費用がかかり、十分な数の健康結果を達成するためには多数の参加者と年数を要するために、このエビデンスがまもなく利用できるようになることはありそうにない。

 

減塩に対する生理学的応答

 減塩に応答するレニンーアンジオテンシンーアルドステロン系の継続的な展開は心筋梗塞や心臓死の危険率増加に導くとヒーネイ博士は述べている。レニンーアンジオテンシンーアルドステロン系応答は塩摂取量を大きく突然に変化させることが知られているが、このことは主張されている漸進的な継続的減塩に関係していないかもしれない。どの程度の減塩と期間がレニンまたはアルドステロン濃度を増加させ、減塩の結果で血漿レニン活性の中程度の増加という臨床関係(急性または持続性)については確実には知られていない。心血管疾患危険率を低下させる血圧低下治療に応答してレニンも上昇する。レニン上昇がどれくらい心血管疾患に影響を及ぼすかよりも将来の心血管疾患についての生物指標として血圧上昇の大きな確実性がある。

 

塩摂取量勧告値を達成する可能性

 個人の行動変化を促進させるために教育やカウンセリングが重要であるが、食事供給で塩を減らすことが重要である。アメリカ人の塩摂取量の約80%は包装食品やレストランの食事で加えられる塩から来ている。便利な食品や食事を好む傾向と対照的に、多くの食事を様々な物から用意するようになるまでは、この食事環境は、人々が勧められた塩摂取量を達成することを挑戦的なことにしている。消費者の食品購入に加えられている塩を減らすことは塩摂取量を減らすことに役立ち、塩摂取量をより管理することになる。

 食品中の数多くの塩の役割は問題の複雑性に寄与しているので、減塩は産業界で達成され、消費者が受け入れることである。ある程度の進歩は単なる減塩で達成されるかもしれないが、それ以上では、新しい食品製造技術と調理技術による発明の好機である。同じ食品カテゴリー内で幅広い範囲の塩含有量は、減塩が可能であることを示している。各国間で同じ銘柄の食品で塩含有量は著しく変わっていることを最近の調査は示した。絶えず高塩含有量の製品を出している国はない;したがって、地域の味嗜好は塩含有量の変化の理由にはならない。

 味は食品選択の重要な鍵であるが、影響されやすい特徴である。ほとんどの人々は身体が必要とする以上に著しく多くの塩を摂取するので、塩嗜好は生理学的必要量以上にむしろ摂取量を促進させるように思える。好みの量は食品供給で標準量の結果であるようだ。前には非常に塩辛い味の食品を好んでいた場合でも、結局、低塩食を食べ始めた人々は低い濃度を好むように慣れる。摂取している塩の量を次第に減らして行っても、彼等は通常味の差を検出できない。アメリカの食品供給が段階的に次第に減らしていけば、もっと知覚上の研究がまだ必要であるが、味わいを損なうことなく塩辛い食品についての消費者の好みは薄味の方へ移動するように思える。公衆保健社会で受け入れられる範囲内にアメリカ人の平均的塩摂取量に達成させるには、段階的な低下は数年を要するだろう。

 各食品カテゴリー中の塩含有量の基準は業界に平等な競争条件を提供するだろう。全ての会社が彼等の製品中の塩含有量を下げる時に共通の目標となるからである。彼等が製品中の塩含有量を減らしても他の会社が減らさなければ、これは、特定の会社が競争力を失う可能性を軽減するのに役立つ。そのような基準はイギリスで実行されてきて、そのことで塩含有量が食品供給で15%減らされた同じ時期に血圧、心疾患、脳卒中、死亡の低下が最近観察された。

 心血管保健促進と疾患予防に対する総合的なアプローチは多元的でなければならない。それには健康的な食事に加えて、規則正しい運動、健康的な体重維持、血圧とコレステロールの管理、血糖の制御、禁煙を含めるべきである。減塩は隔離された勧告ではない;野菜、果物、全穀粒の摂取を強化する健康的な食事パターンの重要な要素であり;低脂肪乳製品、家禽、魚、豆類、非熱帯植物油、ナッツを含み;そして甘味、砂糖で甘くした野菜、赤身肉の摂取量制限。このパターンに協力した食事は標準的なアメリカ食よりも塩が少なく、カリウム、マグネシウム、カルシウムが多い。組み合わせると、これらの要因は心血管疾患危険率を低下させるだろう。

 成功した減塩は行動と全てのレベル-個人、医療提供者、専門機関、公衆保健当局、政府、産業界の協力を要求している。保健と栄養専門家達は、公衆保健勧告は大なり小なりの設計を持った研究、幾つかの矛盾した結果を持つ研究を含むエビデンスの全てを評価した後に作られるように考えなければならない。20146月声明で主要な栄養学者30人以上の結論を繰り返すと:“全人口の減塩はアメリカ合衆国の心血管疾患と死亡を減らす絶対に必要なアプローチである。”