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レビュー

人口の減塩と心血管疾患の危険性:ヨーロッパ塩行動ネットワークからの科学的声明

Population Dietary Salt Reduction and the Risk of cardiovascular Disease. A Scientific Statement

 from the European Salt Action Network

By F.P. Cappuccio, M. Beer, P. Strazzullo on behalf of the European Salt Action Network

handling editor A. Siani

Nutrition, Metabolism & Cardiovascular Diseases 2019;29:107-114   2019.02

 

 

要約

 塩摂取量と心血管疾患結果との間のJ字型関係を示唆する多くの前向きの観察研究で過去数十年間の発表は心血管疾患の苦しみを減らすために人口全体の減塩政策の適切性に関する論争を公開してきており、塩摂取量を5 g/d以下にすると言う理想的な目標を目的にして2025年までに塩摂取量を30%減らすWHOのガイドラインにある人々は疑問を持ってきた。

 20189月に、人口減塩の適正に疑問を持った発表の品質を評価した後、ヨーロッパ塩行動ネットワーク(ESAN)は科学的エビデンスを考察し、最近のデータの落とし穴を明らかにした。新しいエビデンスは不十分と思われ、所々で間違った方法論によって偏向されていた。これらはスポット尿や川崎式の使用による塩摂取量の偏向調査で明らかにされた。研究設計でより厳密な品質特性を用いる研究で最近示されたように、スポット尿試料を使った前向きの観察研究における塩摂取量と結果との関係の偏向調査、そのような研究における逆因果関係の影響、データ解析に対する不十分な解析法、生物学的な妥当性の欠如と長期間塩摂取量調査における正確性の欠如があった。

 そのような評価に基づいて、ヨーロッパ塩行動ネットワークはWHOが勧めるような中程度の減塩の国家や地域による計画実行に対する支援を確認する声明に同意した。

 

はじめに

 高血圧は主に心血管疾患のために世界中で成人の死亡と疾患の第一原因である。心血管疾患の危険率は血圧上昇と共に次第に増加する。しかし、心血管疾患死亡の大多数と血圧に帰する疾患は120 – 140 mmHgの間の収縮期血圧の人々のような正に最適に近い血圧で起こる。これらの血圧値集団で非常に多くの人々がいるからである。臨床ガイドラインは薬剤を使用している人々の大部分を対象にしていない。したがって、非薬物療法(食事や生活様式)を通した集団アプローチはWHOによって勧められている最も可能性のあるオプションで、2013年の第66回世界保健集会の国連決議の下に採択された。

 

塩、血圧そして心血管疾患

 高塩摂取量は高血圧と関係しており、中程度の減塩は血圧に有意な低下をもたらす。さらに、十分に管理されたコホート研究と介入試験では、低塩摂取量は心血管疾患発症の低下と関係している。

 

新しいエビデンス

 しかし、1研究グループによる多くの最近の発表は科学的な論争と有名なプレスと一般社会で混乱をもたらした。WHOが示唆した塩摂取量(5 g/d以下)12 g/d以上の塩摂取量と同じくらい危険であること意味している塩摂取量と心血管疾患危険率との間にJ字型関係を研究は示唆している。研究はPURE研究からの反復解析や高血圧患者における併用した薬剤治療の有効性を調べた2件のランダム化臨床試験からのその後の解析を含んでいる。血圧に及ぼす異なった塩摂取量の効果と将来の心血管疾患結果と死亡率を調べるためにこれらの研究で使われた方法は、近年の医学文献(1 省略)で繰り返し扱われてきた欠陥に悩んでおり、それはごく最近の発表でもまだ無視されている。それにもかかわらず、これら論文の著者らは5 g/d以下に減塩するためにWHOの世界的な勧告値に挑戦を続けており、数多くの世界保健機関によって、心血管疾患の予防に中程度の減塩の役割や世界的な公衆衛生行動の必要性に関する確かなエビデンスとして考えられていることに異議を唱えている。

 

新しいエビデンスの簡単な科学的評価

スポット尿と川崎式の使用による塩摂取量の偏向された調査

 全ての研究は塩摂取量調査のために早朝尿使用に関係していた。これは川崎式を使って24時間尿中ナトリウム排泄量に対する尿中ナトリウム濃度のデータを外挿して得られた。その方法は信頼性がなく、系統的な偏向があるために、個人の塩摂取量を推定するには不適正な方法である。

この式は、スポット尿と年齢、性、身長と体重から予測される24時間尿中クレアチニン排泄量からの尿中クレアチニン濃度に依存している。これらの要因の幾つか、特に年齢と24時間尿中クレアチニン排泄量は、多重共線性と本当の関係の歪曲につながるように関心のある結果、特に死亡率と密接に関係している事実に1つの問題がある。第二の問題は、低塩摂取量では過大推定、高塩摂取量では過少推定によって一貫した偏向をスポット尿法はもたらすことである。これはPURE研究で報告された確認でも存在し、それが発表されたときに批判され、中国のコホート研究では一層明らかで、後の解析はそれに大きく基づいている。川崎式の使用は他の方法と比較して小さい偏向をもたらすと同時に、前の研究では中国の確認研究では2倍ほど高い(1、省略) 。しかし、Bland-Altmanプロットで示されるように個人の塩排泄量を推定するとき、大きな偏向の存在は他の確認に対して重ね合わせた結果を著者らは無視している。さらに、‘最初の空腹時’(夜間) 試料を使う一方で、川崎式は‘二回目の’早朝尿試料を調査するように設計されてきた。非常に効率で不完全な収集(50%以上)があり、恐らく不完全性のために、高い24時間尿中ナトリウム排泄量で偏向は大きくなる。したがって、スポット尿試料は塩摂取量を調査するために信頼できるテストではない。

スポット尿試料を使った塩摂取量-結果関係の偏向された調査

 関連する研究の著者らは、方法がグループ平均を調査するために有用である考え方を主張している。しかし、コホート研究設計で危険予測を評価するとき、彼等は個人に関するデータを使う。高い信頼度(すなわち10%以内)と偏向なく個人の塩摂取量に近付けるためには何回かの24時間尿収集が必要とされることは長い間に確立されてきた。塩摂取量を評価するための反復24時間収集法を使用するコホート研究は、低塩摂取量で危険率増加なく塩排泄量と心血管疾患結果との間に確実に段階的な関係を示す。

 塩摂取量と死亡率の前向き調査における二回目早朝スポット尿と比較した反復24時間尿収集から得られた塩摂取量測定値間の最近の直接比較は、塩摂取量が多数の24時間収集で評価されるとき(塩摂取量3 g/dまでの低摂取量で危険率増加のエビデンスはない)、段階的な関係はなく、一方、スポット尿から川崎式を使うと、‘間違った’J字型曲線が生ずることを示している。したがって、川崎式の使用によるスポット尿収集は前向き研究で個人における関係を研究するには不適当な方法である。本研究は、一回の24時間収集は致命的な結果に及ぼす塩摂取量の長期間の影響を評価するには不十分である。したがって、一回の尿テストは致命的な結果に及ぼす塩摂取量の長期間影響を評価するために関係を研究するには不適当な方法である。

逆因果関係の潜在的な危険性

 重要な点は一般的な集団で塩摂取量の中程度減塩の実行を調査するために病気集団や患者グループの一貫した使用である。ONTARGET/TRANSCEND studyは降圧剤治療のランダム化された臨床試験を行うために高危険率患者から28,800人の参加者を選んだ。誤解されている彼等の結果の逆因果関係は重要な欠陥である。

 選ばれた参加者の特性を表2(省略)に示す。患者は老人であった(平均年66.6±7.2)。しかし、低塩摂取量グループの患者は2.4歳上であった。研究全体で、71%はヨーロッパ系白人男性で、低塩摂取量グループは女性の過剰表現であった。全てが重要な前疾患を持っており(心筋梗塞48%、脳血管疾患21%、高血圧70%、糖尿病37)、全てはベーター・ブロッカー(57)、利尿剤(29)、カルシウム・チャネル・ブロッカー(35)、レニンーアンジオテンシン系のブロッカー(75)で高度に治療された。もっと面白いことに、利尿剤治療患者の割合は低塩摂取量グループ(41%)と高塩摂取量グループ(43%)の両方で高かった。事実、低塩摂取量グループで報告されている高い心血管疾患死亡率は全心血管疾患死亡の複合結果でのみ検出された(3、省略)。これはこのグループで過剰な心不全によって排他的に説明されているが、過剰な心筋梗塞、脳卒中、または非心血管疾患死亡ではなかった。

 ひとまとめにして考えると、心不全の危険率が高く、多く利尿剤治療を受けており、死亡の危険率が高い老齢や病気の低塩摂取量患者グループの過剰表現はそのグループで検出される高死亡率と同時に、この患者グループで低カロリー摂取量としばしば関係している低塩摂取量(逆因果関係)を説明していることを結果は示唆している。病人や治療中の個人を含めることは間違った結果をもたらす。

 同様の注意を17ヶ国で157,543人が登録されている進行中の疫学コホート研究であるPURE研究に払うべきである。PUREナトリウム研究だけが尿試料を提供できる101,945人の参加者(元のコホ-トの65)に関して報告した。全体的な元のコホ-トと比較して、ナトリウム・コホ-トはインドで参加者が少なく(518)、中国で多く(42%対30)、ナトリウム・グループについての分布はアンバランスであった(4、省略)。諸国間や国内間の社会経済的状態による潜在的な混乱は、塩摂取量と病状との関係を評価するときに重要な危険性となる。PURE研究の研究設計と社会経済的指標についての十分な調整を欠いていることを考えると、社会経済的状態について十分な調整を欠いていることはPURE研究で重要な問題である。

 さらに、低塩摂取量グループは2.8歳高く、男性が少なく(29.658.1)、アジア系の参加者が少なく(33.873.0)、心血管疾患歴(9.27.1)と糖尿病歴(10.68.4)が高く、通常の治療を受けている人々の割合が大きいことは低塩摂取量グループで自選病人参加者の存在を示唆していた。低塩摂取量グループで病気に罹っている参加者の自選は塩摂取量の不正確な評価の結果であるらしい。また、病人はずっと早く死にやすく、食事も一層変えやすい。結局、EpiDREAMコホ-トは二型糖尿病の高い危険率にある人々を選び、治療中の人々の比率は高く70%以上は女性であった。これらの研究の結果はいずれも選ばれなかった集団で中程度の減塩を現在の公衆衛生戦略に盛り込む、あるいは低塩摂取量と心血管疾患死亡率増加と因果関係を支持するために良質と考えられるようには一般化されない。

データ解析への解析的なアプローチ

 最近のPURE研究解析は上記の方法論的な問題を解決するために地域社会に基づいた解析を行うことを試みた。低塩摂取量の過大評価と高塩摂取量の過少評価、そして関連している信頼性のない問題と不正確な推定値は集団レベルでまだ存在している。同じ偏向は幾つか他の集団でも報告されており(毎日の摂取量を推定するために使われる式には無関係)、横断的研究や前向き研究で個人の塩排泄量(塩摂取量)を調査するためにはこれらの測定値を不適当としている。したがって、方法論的問題を解決するために地域社会に基づいた解析は前の批判に対する正しい答えではない。

 2件の高い影響力のある研究は、同じデータセットの再解析とONTARGET and TRANSCEND TrialsEpiDREAMを加えたPURE研究からの前のデータの再発行である。驚くまでもなく、これらの大規模試料の結果は彼等の前の結果の確認である。幾つかの考察しなければならないことがある:著者らは‘高血圧’と‘正常血圧’の生物学的な意味のない二分割で集団の連続的に分布している生物的変数を分けている。そうすることにより、彼等は関係、特に傾向を調査するとき、検出する統計力を弱める。結論を間違わせたテイラーらは同様の間違いを犯し、その後、データの適切な再解析によって修正された、言い換えれば、心血管疾患発症の主たる生物学的決定因子である血圧は標準的に分布しており、それは‘正常血圧者’と‘高血圧者’の間で集団ベースの解析を行うために生物学的に意味のあることではない。

最もらしさの欠如

 低塩摂取量に関係した高い心血管疾患危険率について最もらしい説明はない。J字型曲線はレニンーアンジオテンシンーアルドステロン系の‘有害な’活性によって媒介されるかもしれないと言う主張は、前の批判で言われたような中程度の長期間減塩の情況の不正確生理学的声明である。これらの著者らによると、最も少ない塩摂取量の危険量はほとんどのヨーロッパ人、北アメリカ人、オーストラリア人で明らかにされている量と正確に同じであるので、彼等の主張は、習慣的な塩摂取量をほぼ半分にすることによって高血圧者と正常血圧者の両方で達成できる統計的で臨床的に有意な血圧低下のランダム化比較試験によるエビデンスにもかかわらず、これらの諸国の塩摂取量に関する“非介入”政策を暗示しているのだろう。

一回の塩摂取量推定だけからの低い正確性

 より厳重な品質特性を持った研究はそのような偏向を避けられ、より信頼性のある結果を得た。ミルズらはアメリカ合衆国の7地方から3,757人の慢性腎臓疾患患者のコホ-トを追跡した。彼等は24時間尿収集に基づいた累積換算測定値から基準の尿中塩排泄量を評価し、6.8年間という中間の追跡期間について致命的でない複合心血管疾患発症(心不全、心筋梗塞そして脳卒中)に関する情報を得た。804件の複合疾患(心不全575件、心筋梗塞305件そして脳卒中148)が生じた。研究は換算した尿中塩排泄量と非線形効果のエビデンスがない複合心血管疾患発症との間に有意な線形関係を示した。クックらはTOHP(25.7年追跡)TOHP(22.4年追跡)で治験後の監視の拡大中に前高血圧者を追跡した。全部で77人と174人の死亡が減塩介入グループでない独特の参加者の中でそれぞれ生じた。多数(1人につき3 – 7)24時間尿収集が行われた。平均塩摂取量と死亡率との間に直線関係があった。低塩摂取量ではJ字型傾向は観察されなかった。これらの研究設計は前の研究の主たる方法論的挑戦に打ち勝ち、比較的小さい疾患率にもかかわらず、彼等は非線形効果のエビデンスがない低塩摂取量の総合的な利益を検出している。多数の収集の更正によって強化された塩摂取量評価は完全性のために注意深く管理された。

 最後にオルデ・エンベリングらは正常な腎機能を持つ成人被験者(平均年齢47)を選らび、1998年と1999年の間で外来患者の24時間尿試料を17年間の追跡中に少なくとも1回収集した。塩摂取量は1回のベースライン収集と1, 5, 15年間の追跡中に収集された試料の平均値で推定された。9776件の24時間尿試料を持った被験者574人が含まれた。一回のベースライン測定と比較して、被験者の50%は長期間推定の塩摂取量で0.8 g以上の差を示した。結果として、全ての被験者の45%、49%、50%は、15、または15年平均値が使われたとき、塩摂取量の3分位間でそれぞれ交換した。その結果として、心臓―腎臓結果についてのハザード比はベースライン推定値の代わりに短期間(1年間)と長期間(5年間)追跡からの塩摂取量推定値の使用で85%まで変化した。本研究は、一回のベースライン24時間塩測定値と比較してその後の24時間尿試料使用は個人の塩摂取量の異なった推定値に導き、一方、塩摂取量と長期間心臓および腎臓結果との関係に及ぼす重要な影響とともに集団の平均値は同様のままであったと言う概念を強調している。

 

結論

 心血管疾患予防のために中程度減塩のために世界的な行動を支持するエビデンスは強く、そのような新しい論争のある研究-特にPURE研究-は塩摂取量と心血管疾患結果との複雑な結果を表すためには不適当であり、世界的に減塩する公衆衛生活動の協調を覆すべきではない。