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血圧-塩感受性パラダイム:病態生理学的にはまだ実用的ではない

The Blood Pressure –Salt Sensitivity Paradigm:

Pathophysiologically Sound Yet of No Practical Value

By Ferruccio Galletti and Pasquale Strazzullo

              Nephrology Dialysis Transplantation 2016;31:1386-1391  2016.08.11 


要約

 ナトリウムは血圧値に重要な病態生理学的役割を演じ、高血圧の発症ではインターソルト・スタディのような疫学研究は、加齢に伴う血圧上昇は塩摂取量によって決定されることを示した。最近、13件の前向き研究のメタアナリシスも過剰な塩摂取量と脳卒中や全体的な心血管疾患の高い危険率との密接な関係を示した。しかし、塩摂取量の変化に対する血圧応答は著しい変化を示し、それは最初に川崎らによって、後にワインバーガーらによって示唆された。ワインバーガーらは塩に対する血圧応答の不均一性を認識し、塩感受性の概念を発展させた。我々は遺伝的変異体の効果に関連して塩感受性血圧を決定する代謝因子と神経ホルモン因子の主要な役割に関連した多くのエビデンスを持っている。塩感受性は血圧値や高血圧発症で-少なくとも部分的に-無関係にでも器官損傷の発症に影響を及ぼすエビデンスがある。さらに、いくつかの観察研究は、血圧値や高血圧とは無関係に高い心血管疾患率や死亡率と明らかに関係していることを示している。塩感受性高血圧で発症し易くなると全て知られている高インシュリン血症、異常脂質血症、微量タンパク尿のような良く知られたアテローム発生性の可能性を持った一連の要因は、塩感受性者で観察される心血管危険率の増加を少なくとも部分的に説明できるかもしれない。塩感受性血圧評価についての黄金基準は数週間の塩摂取量で中程度の低下に対する血圧応答である;それにもかかわらず、これらのプロトコールはしばしば食事教育に対して患者があまり従わないことに悩む。この問題を克服するために、短期間のテストが提案された。それは数日間の塩摂取量の大きな差または静脈内の塩水と即効性利尿剤の投与に対する応答のいずれかを評価する。最近、塩感受性血圧の臨床測定のために24時間血圧測定器の使用が提案されてきた。注目すべきことに、誰でもあるいはどんな方法で調査しようとも塩感受性血圧は連続的な変化として現れるが、塩感受性は絶対的なパラメーターとして次のように使われる。低塩摂取量と高塩摂取量との血圧差が10%以上の人々を塩感受性者と定義し、塩を負荷しても血圧上昇がないかまたは5%以下の血圧上昇を示す人々を塩抵抗性者と定義した。前述の考察から引き出された一般的な結論は、塩感受性の重要な病態生理学的意味にもかかわらず、塩感受性のパラダイムは役立たず、これまでは臨床業務で診断している医者に対して集団を対象にした減塩戦略の設計や実行に対して適切であるだけでなく有用でもある;しかし、臨床業務で塩感受性の表現型の正確な調査のためにさらなる研究が正当化される。減塩についての集団戦略がなく、身体に有害な生活様式習慣によるのではなく、本当のヒトの要求量に合わせた塩摂取量を見込んだ‘低塩摂取量環境’の醸成を目的とすべきである。

はじめに

 イタリアの習慣的な食事の塩含有量は-世界中のほとんどの他の諸国のように-WHO勧告値やイタリアの推奨食事参考摂取量をはるかに超えている。心血管の健康に及ぼすこの広く行き渡った食事習慣の有害な影響についての確たるエビデンスがあるにもかかわらず、過剰摂取は成人、子供、高血圧患者でも起こっている。インターソルト・スタディは世界中の異なった集団の平均塩摂取量と加齢に伴うそれぞれの血圧上昇との直接的な関係の明白なエビデンスを提供した。ごく最近、前向きの観察研究の総合的レビューとメタアナリシスは過剰な塩摂取量と脳卒中や総合的な心血管疾患との関係を示してきた。成人の高血圧者と正常血圧者の両方と子供の血圧を下げる中程度の減塩の効果も多くのランダム化比較試験の2件のメタアナリシスによって示されてきた。疫学研究と臨床研究に加えて、デントンと同僚がヒトの遺伝子型の98%以上を持っている動物種であるチンパンジーで行われた画期的な研究は、ヒトが通常食べている塩の多い食事をさせると、これらの動物で数ヶ月間に血圧は次第に上昇し、通常の低い塩摂取量の食事に戻すと正常の血圧値に回復したことを明らかに示した。


塩感受性血圧の概念

 デントンの実験法が数年後の再現された時、著者らは、この動物モデルで塩摂取量と血圧との関係は性、年齢、肥満とインスリン抵抗性が同時にある場合と言った多くの要因によって実際に影響されたことに気付いた。したがって、塩摂取量を変化させることによる血圧応答は全ての個人で定量的に同じではなく、著しい変動を示し、ヒトによる研究で観察されたこととほとんど同じであった。

 川崎らと後にワインバーガーらは塩摂取量の変化に対する血圧応答の不均一性を組織的に認識し、塩感受性血圧の概念を正式に発展させた。ごく最近、他の研究は、多くの神経-ホルモンで働く器官を含む病態生理学的工程で腎臓の中心的役割の解明に導くこの変化した応答の遺伝的代謝的根拠に焦点を置いてきた。

 

塩感受性血圧に含まれる代謝的要因と神経-ホルモン要因

 塩感受性血圧に含まれる神経-ホルモン要因の中にはレニンーアンジオテンシンーアルドステロン系、交感神経系、ナトリウム利尿ペプチド系、インシュリン、レプチン、ホルモンそして/またはパラクリン活性を伴う各種の内皮器官がある。これらのほとんどは尿細管のナトリウムと水の再吸収、つまり血液量のホメオスタシスに影響を及ぼす。これらの神経-ホルモン器官の活性化と遺伝的な変動による器官に対する腎臓の応答における主な偏向における両方の変化は塩摂取量における同様の変化に対する血圧応答の程度を決定する。したがって、塩感受性血圧は部分的に遺伝で受け継ぎ、部分的に個人の特性で獲得している。

 遺伝要因の影響の模範的な事例は高血圧の単一遺伝子型によって与えられ、高血圧では尿細管上皮を通したナトリウム移動に含まれる分子に付与する一つの遺伝子で機能損失または機能獲得した変異体は体液量のホメオスタシスに絶大な変化を引き起こし、早々に血圧上昇を来たし、そのことは減塩または利尿剤投与に対して感受性である。

一部省略

 塩感受性とインシュリン抵抗との関係はインスリン感受性を測定するための黄金基法である高インシュリン血症の血糖クランプを採用した研究で評価された。この研究は、通常グルコース耐性の本態性高血圧患者の集団内で、インシュリンに刺激された全身のグルコース摂取量は塩感受性血圧と逆相関しており、この関係は年齢や体格指数とは関係ないことを示した。インシュリンが塩感受性に影響を及ぼすかもしれない別のメカニズムは内皮弛緩の調整を通している。‘塩感受性’高血圧者と正常血圧者は‘塩感受性’者と比べてかなり低い血管膨張性を示した。

 さらに、塩感受性は高い塩感受性血圧患者で血流低下による膨張と関係しており、内皮機能不全は目標器官障害で長期間の大きな発症とこれらの患者の高い死亡率に明らかに寄与していることをリューらは報告した。

 ごく最近、オバーライスナーと共同研究者達による試験管内研究は、アルドステロンの存在下で血漿ナトリウム濃度の比較的わずかな増加は内皮細胞の弾力性と酸化窒素生産を大きく損なうことを示した。この点について、2 – 3 mmol/L程度の変化は塩辛い食事後の吸収相と吸収後相で起こり、血圧の大きな変化と明らかに関係していることを述べる価値はある。

 要約すると、多くの良い品質のエビデンスは塩感受性血圧決定で遺伝的異体の効果に加えて代謝的要因と神経-ホルモン要因の重要な役割を支持している (図1省略)

 

塩感受性、心血管罹患率と死亡率の予言因子

 塩感受性血圧が心血管疾患の高い罹患率と関係していると言う幾つかの観察研究からのエビデンスがある。元々正常血圧者グループと異なった塩感受性血圧を持った臨床的に健康な男性を研究したバーバらは、15年間の高血圧発症率は低い塩感受性者と比較したベースラインにある塩感受性の高い度合いを持った個人の中でかなり高いことを知った。研究はこの集団を説明するメカニズムを明らかにする可能性を持っていなかった:それにもかかわらず、高インシュリン血症、異常脂質血症、微量タンパク尿のような良く知られたアテローム発生性の可能性や塩感受性高血圧の予防になると知られている要因群は、これらの個人で観察される心血管危険率の増加を少なくとも部分的に説明できるかもしれない。これらの結果と一致して、中程度の本態性高血圧の未治療患者による他の研究は、腎不全、高血圧性網膜症、左心室肥大を含む高血圧性目標器官損傷の色々な特徴は塩感受性血圧としばしばもっと関係していることを明らかにした。その著者らは、損傷器官のこれらの形態は高インシュリン血症、異常脂質血症、微量タンパク尿そして内皮障害のエビデンスと一緒にあることを報告した。

 森本らの研究で、塩感受性は血圧や喫煙とは関係なくとも心血管疾患の高い罹患率を予測できた。ワインバーガーらは、高血圧患者とある程度比較的高い塩感受性血圧の正常血圧者でも、同年齢のそれぞれ高血圧者と正常血圧者および比較的低い塩感受性と比較して低い生存率であることを示した。

 最後に、遠位尿細管にあるナトリウム・チャンネル制御タンパク質であるNEDD4Lの遺伝子変異体は高くなった塩感受性血圧、比較的高い平均血圧値そして心血管疾患と死亡の比較的高い比率と関係していた。


研究と臨床業務における塩感受性調査

 研究目的のための塩感受性血圧の調査は広範囲な研究目的であった。塩感受性血圧はどの集団で測定され、どんなテストであろうと連続的な変化として現れる。研究中の集団特性に依存して、例えば、年齢、体格指数または高血圧状態に関しては、塩摂取量の変化に応じた集団の平均血圧変化は異なってくる;しかし、個人の血圧応答の広く連続的な分布が全ての事例で観察される。この明白なエビデンスにもかかわらず、いわゆる‘塩感受性’者と‘塩抵抗性’者の存在は全体的に任意の域値の認定を基にして非常に頻繁に支持される。事実、わずかな被験者だけが反応を示さないか、なにがしかの血圧上昇を示すだけで、大多数の個人は減塩に対する応答で血圧の投与量応答低下を経験する。

 塩感受性血圧の評価についての黄金基準は数週間続けた中程度の減塩に対する血圧応答である。しかし、長期間中程度の減塩プロトコールは食事教育に対するしばしば不満足な患者の遵守とこの遵守を期間中繰り返し確かめる必要性によって制限される。この問題を克服するために、長期間の中程度減塩の効果の調査は2,3日間の塩摂取量を大きく変える短期間テストによって、または幾つかの事例では、塩水の静脈投与や即効性の利尿剤のテストによってしばしば置き換えられる。残念ながら、これらの操作に対する応答は本当の生活条件で減塩に対する長期間応答を本当に予言できるというエビデンスはほとんど、または全くない。事実、劇的で突然の短期間減塩は、特に交感神経系とレニンーアンジオテンシンーアルドステロン系に関して塩摂取量管理の変化を直接起こさせて神経-内分泌調節に強く依存する血圧応答を生ずる。これらの調節は、少なくとも4週間の比較試験で中程度の減塩で生ずる、従って間違った結果を生ずる神経-内分泌変化よりもずっと大きいと言う明らかなエビデンスがある。

 臨床調査で塩感受性血圧の調査について広く使われているプロトコールは長い間であった。それは次々と適用されてきた体液量増加と収縮運動に対する血圧応答を評価している;このプロトコールはいくつかの再現性と比較に対する減塩の血圧応答を経験してきた。統計的関係が異なったテスト間で検出されたが、二つのテストに対する応答の著しい個人内変動は塩感受性グループまたは塩抵抗性グループを間違って分類させた。さらに、グリム-ワインバーガーのテストの二つの段階中に生じる血圧変化の注意深い解析は二つの集団の高血圧者の間で区別できるようになった。一つはテストの初日に投与された静脈内塩負荷中の限定的な血圧上昇で、二つ目は次の日の利尿剤投与後の実質的な血圧低下を経験した血圧である。これら二つの応答は相互関係に乏しく、事実、塩水注入中の血圧変化の回帰線勾配は同じ患者で観察された減塩に対する血圧応答と非常に相関していることが分かった。

 最近、塩感受性血圧の臨床調査でカスティグリオーニらは24時間血圧測定を提案した。高塩食の集団内では、より高い塩感受性者は日中のナトリウムと水貯留の結果として変化する24時間血圧パターンを示し、24時間血圧測定によって測定に対して影響を受け易い体液増加に対する神経-ホルモン応答を統合できることを彼等は理由に挙げた。彼等が46人の未治療高血圧患者で観察したことは、平均脈拍数と収縮期血圧夜間低下は、5.1 g/d食から0.8 g/d食に切り替えた(それぞれ1週間継続)時の収縮期血圧変化によって得られた塩感受性指標と有意に関係していたことであった。残念ながら、相関係数の大きさは実用の可能性を支持するには明らかに小さ過ぎ、再び、参考基準として使われる彼等の塩感受性指標は、長期間中程度の減塩に対する血圧応答に相通じてほとんどない短期間劇的な減塩に対する応答に基づいていた。

 高めの正常血圧またはステージ1高血圧の人々を含む高血圧予防食(DASH)研究は、実生活条件で、中程度の減塩は4週間程度で平行となる傾向のある徐々に血圧低下を起こすほとんどの人々に関係していることを非常に明らかに示した。従って、ある個人の塩感受性血圧の意味のある調査は、被験者が指示された期間中に要請された中程度減塩を守ることを要求している。他方、高血圧予防食経験は一定の塩摂取量機関中でも被験者で生ずる自然な血圧変化の幅広い分布を強調した:この自然の個人内血圧変化は、減塩に対する血圧応答で観察される血圧変化が減塩だけで起こるのか、または単なる自然な個人内血圧変化によるものかどうか、個人を基にして区別することは非常に難しくする。

 この問題は数日間の多数血圧測定、または24時間血圧測定計の使用で多分、克服できる。

 大きな個人内変動問題は、尿中ナトリウム排泄量を使って指示された減塩に対するモニターしている患者の遵守性について同じことが生ずる:古い研究と最近の研究は、数多くの24時間尿収集は患者の一日の平均塩摂取量と患者および臨床実験の両方について耐えられない負荷を正確に推定するために実際に必要であることを示していることと一致している。さらに、長期間固定された塩摂取量に維持された健康な個人で行われたラコバらによる最近の実験研究は尿中ナトリウム排泄量に予測できない変動のエビデンスを提供し、体重や水貯留に付随した変化と関係なく、アルドステロンとコルチゾール産生の変化に関係していた。


結論:塩感受性のパラダイムは減塩の予防的治療的戦略に適用できない

 要約すると、塩感受性血圧の概念の長所と限界に関するこの短いレビューは次の考察に導く:

  塩感受性血圧の概念は集団の平均塩摂取量に大きく依存している異なった集団で経験する加齢に伴う血圧上昇の病因を説明するために有用である。

  遺伝的感受性に関連し、加齢、肥満、腹部の肥満と糖尿病、それらは変えられた腎臓のナトリウム処理と全て関連しており、それらの条件を獲得したこととも関連して高血圧発症について塩感受性血圧の概念は機械的な説明を提供している。

  塩感受性血圧の概念は加齢に伴って高血圧を発症させそうな予測因子であり、高い心血管罹患率と死亡率の予測因子であるように思われる。

  他方、塩感受性の多遺伝子性と多機能性に関連して、塩感受性血圧は連続的な変数である;したがって、塩感受性者と非塩感受性者集団を分ける試みは人為的なことである。

  塩感受性血圧の定量的な調査についてこれまで提案されてきた全てのテストは不正確で、再現性が悪く、しばしば厄介で費用もかかり、実生活条件では一般的に適用できないことを示してきた。

  どの集団でも大多数は少しづつ長期間中程度の減塩に応答して何某かの血圧低下を経験している:2,3 mmHgに限られていても、この血圧低下は心血管の危険率にかなりの低下をもたらすと期待されている。

結論として、臨床業務で塩感受性表現型の正確な調査についてはさらなる研究が望まれる。今日まで、塩感受性の重要な異常病態生理学的意味にもかかわらず、塩感受性のパラダイムは毎日の高血圧患者の治療で医師によって使えず、集団を基準にした減塩の設計や実行にも関連させられない。

これらの戦略は過剰な塩摂取量の危険率について集団にもっと警告をし、減塩する人々や外食する時でも人々を導くことを目的とした運動を実行する第一の方向付けとすべきである。あるいは同じ家族内で‘他の戦略’を無視しながら、おそらく‘塩感受性’者に対するこれらの運動を制限する実際的な可能性または理論的根拠を認識することは難しい。

外食量が次第に増加していることを考えると、復活企業の参加や減塩計画で配膳産業が必要である。

消費者や食事調製に携わっている人々の注意を喚起することに加えて、全国民の減塩戦略は、少なくとも塩が入っている食事の2/3は食品店やスーパーマーケットで購入された加工食品に隠れている塩から来るので、食品産業界の協力を必要とする。この塩摂取量を下げるためには、組成変更した食品の再改正は産業界との交渉または法改正のいずれかによって行われなければならない。

本質において、減塩の集団戦略は‘減塩環境’を作り出すことを目的とすべきで、本当にヒトの必要量(2.5 g/d)に基づいて調整された塩摂取量を準備し、子供の頃から個人に押し付けられ、不健康でもはや正当化できない伝統に基づいた悪い生活習慣に基づかないように、これらの悪い生活様式を維持する食品業界の商業的な関心に対する義務として目的にすべきである。この‘減塩環境’は全てについて明らかにすべきである。