高血圧診断法と塩感受性テスト
Diagnostic Tools for Hypertension and Salt Sensitivity Testing
Robin A. Felder, Marquitta J. White, Scott M. Williams and Pedro A. Jose
Current Opinion in Nephrology and Hypertension 2013;22:65-76
要約
レビューの目的
世界人口の1/3は高血圧で、それは脳卒中または冠状心疾患による死亡のほぼ50%の原因となっている。これらの統計は塩抵抗性高血圧と塩感受性高血圧を区別していないか、または血圧に関係のない塩感受性が心血管疾患とガンを含めて他の疾患の危険因子あるとしても塩感受性である正常血圧者を含めている。本レビューは塩感受性用の新しい個人的な診断法を述べる。
最近の発見
塩摂取量と心血管疾患危険率との関係は直線ではなく、むしろJ字型曲線関係に合っている。したがって、低塩食は誰にでも有益ではないかもしれず、ある人々では逆に血圧を増加させるかもしれない。塩感受性の現在の代替指標は感受性または特性に十分ではない。短い所要時間で塩感受性の代替指標となる尿テストは尿中に腎臓の近位尿細管細胞、エキソソーム、マイクロRNAシェッドを含んでいる。
要約
塩感受性の正確なテストは面倒であるだけでなく、高額でもあり、患者の承諾を取りにくい。正常血圧であるが塩感受性の患者は卓上装置では診断できず、塩感受性用の実験室テスト法もない。塩感受性用の尿中代替指標を開発中である。
はじめに
コストを考える場合、高い慢性疾患危険率の患者の同定や危険率層別化の方法は将来の保健介護システムで必要である。予測ゲノミクスは疾患管理健康プログラムを支援する。しかし、遺伝子テストは高血圧の稀な単一遺伝子型のような単一遺伝子疾患を除いて稀に疾患を高度に予測できる。慢性疾患の選別と病態分類の必要性は、9千万人のアメリカ人が一生背負って行く進行性の慢性医療状態にある人口統計から生まれた。アメリカ保健システムに対する年間費用(10億)は高血圧については3000億ドル、糖尿病については1320億ドル、関節炎については820億ドル、喘息については300億ドルである。これに加えて、保健介護費の75%が要する驚異的な報告と死亡の70%は慢性疾患によるものであり、新しいモデルが必要であることが明らかになっている。世界人口の約1/3は高血圧で、それは脳卒中や冠状心疾患による死亡のほぼ50%の原因である。しかし、これらの統計値は塩感受性と塩抵抗性高血圧を区別しておらず、あるいは塩感受性の正常血圧者を含めている。血圧とは関係なく塩感受性は心血管疾患罹患率と死亡率、そして他の疾患、例えば、喘息、胃ガン、骨粗鬆症、腎不全についての危険因子であるので、この区別は重要である。したがって、高血圧と塩感受性についてのバイオマーカーに基づく診断テスト法を開発することから得られる絶大でポジティブな利益がある。
高血圧と塩感受性は過剰な塩摂取量や座る生活様式のような環境的な影響とともに遺伝的な素因の結果として複雑な疾患である。アメリカ人口のほぼ半分が高血圧、塩感受性、またはその両方である(図1)。
高血圧の診断
多分水銀血圧計で腕にカフ血圧測定で現在、高血圧を診断している。長期移動式血圧モニターが勧められる。それは白衣、潜伏性、ノンディッピング、過度にディッピング高血圧から継続的に区別できるからである。次第に認識されてきた心血管危険となっている血圧変動を確認された装置のみを使って実際の血圧値に加えてモニターすべきである。
塩感受性の診断
塩感受性は塩摂取量の変化に応答して5 - 10% (家庭で測定)または少なくとも5 mmHgの血圧変化として定義される。塩感受性の別の定義は塩摂取量の増加で少なくとも4 mmHg(24時間移動血圧モニター)の平均動脈血圧の増加である。少なくとも5%の塩感受性指標(低塩食と高塩食の時の平均動脈血圧の差を低塩食のときの平均動脈血圧で割った値)も塩感受性の別の定義である。1日低塩食(10 mmol)を食べ1回利尿剤を服用した後の早朝測定値に関して4時間にわたって2リットルの通常の塩水を注入した後、少なくとも10 mmHgの平均動脈血圧増加も別の塩感受性定義である(図2)。しかし、塩感受性を測定する最も信頼性のある方法は塩摂取量の変化に応答する血圧である。
本態性高血圧患者の塩感受性は臨床的に記録されず、ランダムな塩摂取量で140/90 mmHg(収縮期血圧/拡張期血圧)以下の血圧で定義される塩感受性正常血圧者ほどに少ない。塩感受性の日常的なテスト法がないことは、塩感受性診断に使われる方法と費用、制限された食事を守りづらいこと、そして臨床的に保健介護保険業者からの賠償がないことに関係しているかもしれない。それにもかかわらず、塩感受性を診断しない保健費と財政費は巨額で、より安価で容易な代替法を要求している。
塩摂取量と健康結果
高塩食と関係している健康リスク、特に心血管疾患は良く認識されている。政府と非営利の健康に基づく団体は一般的に減塩を勧めてきた。
塩は腐敗を防ぐために多くの食品製品でかけがえのない保存剤である。典型的な塩の多い給源はパン、ピザ、パスタの夕食、薄切り冷肉盛合せ、ハム、ベーコン、スープ、そしてほとんどのファーストフードである。個人の平均塩摂取量の約75%は加工食品からであり、追加される10‐15%は調理中または食卓で加えられ、10%は食品、特に肉類に自然に含まれている。果物や野菜は自然にナトリウムが少なくカリウムは多い。低ナトリウム食品は食品製品100 gまたは100 mlの溶液当たり40 mg以下のナトリウム(塩100 mg)にすべきである。減塩食品は標準製品の少なくとも25%以下にすべきである。無塩またはナトリウムのないは食品製品100 g当たり、または溶液100 ml当たり5 mgのナトリウム(1.25 mgの塩)以下にすべきである。
十分な摂取量または医学研究所で定義されている塩摂取量の上限は若い成人で3.7 – 5.8 g/d、成人と老人(60歳以上)については5.8 g/d以下である。
医学研究所が勧めている塩摂取量は‘一つの値が全てに適合’との勧告として意図されているが、各個人は‘塩感受性の個人指標’で遺伝的にプログラムされており、塩摂取量ガイドラインは個別にされるべきである。心血管疾患または死亡に及ぼす塩摂取量の非線形効果を理解するためにもっと研究が必要である。高血圧治療に続く血圧と同様に、塩摂取量と死亡との間にはJ字型曲線関係もある。2.5 – 6.0 g/dの範囲以上と以下の塩摂取量は心血管疾患危険率の増加と関係している。さらに、ある個人については、低塩食で逆に血圧上昇がある(逆塩感受性)(図3)。この複雑性から‘一つの値が全てに適合’と言う考え方は効果的でないだけでなく、潜在的に危険でもある。
塩摂取量に対する応答を測定することの難しさのために、代替指標がしばしば用いられる。通常睡眠で血圧に10‐20%の低下がないことは幾つかの研究で塩感受性の髙い発症率と関係している。低血漿レニン活性も正常血圧者と高血圧者で塩感受性と関係している。塩感受性高血圧の表示と考えられる低血漿レニン活性は感受性と特異性の欠如に限られる。例えば、慢性的な塩負荷プロトコールに対する応答に従ってグループ分けされた日本人の高血圧者では、塩感受性者の8%は正常な血漿レニン活性(n=82)で、一方、92%は低血漿レニン活性(通常塩食で1 ng/ml/h以下)(n=82)であった。対照的に、塩抵抗性者の33%は低血漿レニン活性で、一方、67%は正常な血漿レニン活性であった。したがって、他の研究者達による研究と同じ様に、血漿レニン活性値は必ずしも塩感受性者と塩抵抗性者を区別できない。心房ナトリウム利尿ペプチド(ANP)の循環濃度、脳ナトリウム利尿ペプチド(BNP)、内生ウアバインのような塩感受性の他の代替指標も血漿レニン活性と同様の限界で悩んでいる。
高血圧と塩感受性の遺伝的篩い分け
血漿レニン活性、ANP、BNP、内生ウアバインよりも他の優れた塩感受性代替指標の必要性は、大規模なマイクロアレーを使用する高血圧と塩感受性の遺伝的篩い分け法の開発、遺伝的性質、プロテオミクス、腎臓の近位尿細管細胞、マイクロリボ核酸、尿中に排泄されるエクソソーム等を含む塩感受性についての感受性があり特別なバイオマーカーの開発を促進させてきた。後者は慢性腎臓疾患や他の疾患についての標識としても評価されている。現在利用されている限界のある篩い分け法はポジティブな結果を得てこなかった。さらに、ゲノムワイド関係の研究は、血圧変動の小さな%だけの遺伝変異体しか得られず、これらの研究は塩感受性を含んでいない。
遺伝子テスト用の診断目的
遺伝子テスト用の診断目的は、特にポジティブな家族歴を持つ人々で高血圧と塩感受性を発症させる性質を篩い分けることである。ポジティブな結果を持つ患者はよりしばしば医者に行って励まされ、家庭用血圧計モニターを始める、または従う。塩感受性について遺伝的な根拠をテストすることは疾患になりそうな危険率の高い人々に減塩を奨励し、もっと詳細(で費用のかかる)なテストを行う根拠となる。遺伝的危険率が高いと言う知識は生涯にわたる食事改善をする動機付けを促すであろうし、危険率が低い、あるいは減塩食が有害でさえあるかもしれない人々には減塩を勧めない。
塩感受性に関係のある遺伝変異体
幾つかの遺伝変異体は高血圧そして/または塩感受性と関係してきた。これらの遺伝子は血管抵抗と腎臓ナトリウム輸送の制御と通常関係している。
1.腎臓ナトリウム輸送または血管平滑筋細胞活性を増加させるタンパク質を表す遺伝子。
(以下中略)
遺伝子テストのデータ適応
(省略)
生理学的応答とGRK4変異体対立遺伝子との関係
(省略)
細胞に基づく分析
(省略)
バイオマーカーとしての尿中エキソソーム
(省略)
薬理遺伝学
高血圧分野内では、適正な治療戦略を立てるのに役立つ薬理遺伝学について大きな必要性がある。高血圧患者のわずか46%だけが高血圧を十分な管理下に置いている。特別な遺伝子変異体を知ることは、現在の遺伝子治療が明らかに不十分であるように、適正に個別化された治療に非常に重要である。
最近のハリス世論調査は、効果的な治療法があれば、18歳以上の人々の81%は遺伝性疾患についてテストを受けることに賛成している。公衆保健に対する実質的な社会的経済的利益は個人的な行動を考慮した個人を励ますことによっても達成され、彼等の心血管の健康を改善できる戦略と関係していた。ポジティブな予言的な表現型ゲノミクスは積極的に生活様式を変化させる動機付けを刺激するかもしれない。
結論
本態性高血圧の一般的な発症率を示す統計は塩抵抗性高血圧と塩感受性高血圧を区別しておらず、あるいは塩感受性の正常血圧患者を含めている。血圧とは関係ない塩感受性は心血管罹患率と死亡率および他の疾患の危険因子であるので、この区別は重要である。正常血圧であるが塩感受性の患者はオフィス環境では診断されず、塩感受性についての実験室テストはない。腎臓近位尿細管細胞、エクソソーム、miRNAを含む尿中の代替指標は塩感受性と逆塩感受性を篩い分ける費用効果の良い方法の見込みとなる。
キーポイント
● 血圧の塩感受性は経口塩摂取量の慢性的な変化に対する血圧応答を測定することにより一番良く決定される。腎臓近位尿細管細胞、エクソソーム、miRNAを含む尿中の代替指標は塩感受性と逆塩感受性を篩い分ける費用効果の良い方法の見込みとなる。
● 本態性高血圧の有無による患者の塩感受性は、ランダムな塩摂取量で140/90(収縮期血圧/拡張期血圧)mmHg以下の血圧で定義される特に塩感受性正常血圧患者では臨床的に記録されていない。アメリカ人口のほぼ半分が塩感受性であるかもしれない。
● 高血圧患者と正常血圧患者における血圧の塩感受性は発症率、認識、治療または治療に対する応答に関する発表された統計には含まれていない。血圧とは関係ない塩感受性は心血管罹患率と死亡率および他の疾患、例えば、喘息、胃がん、骨粗鬆症、腎不全の危険因子である。
● 塩摂取量と心血管罹患率や死亡率はJ字型曲線関係にある。低塩食は誰にでも有益ではないかもしれない。高塩摂取量と同様に低塩摂取量も心血管疾患危険率の増加とも関係しているからである。ある人々は低塩食で逆に血圧上昇を起こす(逆塩感受性)。
● 幾つかの遺伝子変異体は塩感受性と関係しているが、遺伝子GRK4の変異体だけがヒトの塩感受性と高度に関係していることを示し、ネズミで表したとき、それ現れたネズミのGRK4変異体と遺伝的背景に応じて塩感受性や塩抵抗性高血圧を引き起こすことを示してきた。