塩摂取量と心血管の健康
Sodium Intake and Cardiovascular Health
By Martin O’Donnel, Andrew Mente, Salim Yusuf
Circulation Research 2015;116:1046-1057
要約
ナトリウムは必須栄養素である。塩摂取量増加は血圧上昇と関係している。一方、低塩摂取量はレニン増加とアルドステロン量の増加を来す。ランダム化比較試験は3.8 g/d以下の減塩による血圧低下を報告し、減塩を勧める現在の全集団のガイドラインの証拠となる根拠を形成している。低塩摂取量(5.1 g/d以下)は短期間の給食臨床試験で達成されるが、継続的な低塩摂取量は長期間の臨床試験(6ヵ月間以上)では達成されなかった。減塩による血圧低下効果は世界中の心血管疾患を大きく低下させるとだろうと仮定されている。しかし、前向きコホート研究からの現在のエビデンスは300,000人以上の研究に基づく塩摂取量と心血管疾患との間にJ字型関係を示唆し、心血管疾患と死亡の最低危険率は平均塩摂取量範囲(7.6 – 12.7 g/d)の人々であることを示唆している。高塩摂取量(12.7 g/d以上)と関係している心血管疾患の危険率増加は高血圧者で最も顕著である。この分野の大きな欠陥は、心血管疾患を予防するために最適塩摂取量に関する決定的なエビデンスを提供するための大規模なランダム化比較試験がないことである。そのような試験がないままで、高血圧者の中で中程度範囲の低い側を目標にして全集団に中程度の塩摂取量(7.6 – 12.7 g/d)についての勧告を現在のエビデンスは示唆しているようだ。
はじめに
ナトリウムは正常な生理機能に必要な必須栄養素である。全体内のナトリウムは多数の生理学的機構を確保する狭い範囲内に細胞外ナトリウム濃度を維持するために厳しく制御されている。塩(塩化ナトリウム)はナトリウム摂取量の主要な給源で、毎日の摂取量の約95%を占め、大部分(85%以上)は腎臓によって排泄される。
集団の塩摂取量増加と血圧との間にポジティブな関係がある。高血圧は世界的に心血管疾患(CVD)の主要な危険因子であるので、集団で減塩することが心血管疾患予防について提案されている目標として現れてきた。減塩は血圧を下げることを示す臨床試験からのエビデンスは、現在の約10.2 g/dという平均摂取量から5.1 g/d以下(すなわち、現在の摂取量の半分以下)まで全集団の塩摂取量を劇的に下げることについての提案を促してきた。世界人口のほとんど(約95%)は7.6 – 15.2 g/dの塩摂取量で、この現在の目標を達成させるためには、ほとんどの人々は食事を大きく変える必要があることをこの摂取量は意味している。しかし、塩摂取量と心血管疾患危険率とを関係付けるエビデンスは相反しており、心血管の健康にとっての最適塩摂取量について著しく論争を引き起こしてきた。
本論文で、塩摂取量と心血管の健康とを関係付けるエビデンスをレビューする。塩摂取量と健康の歴史的なレビューから始めて、その後、世界中の塩摂取量を要約し、塩摂取量を測定する様々な方法をレビューし、塩摂取量と血圧とを関係付けるエビデンスを要約し、塩摂取量と心血管疾患とを関係付けるエビデンスを詳細にレビューし、集団の塩摂取量についてのガイドライン勧告に現在のエビデンスをどう反映させるべきかを提案する。
塩摂取量と健康の歴史
旧石器時代の人々は2.5 g/d以下の塩摂取量であり、人集団の現在の平均塩摂取量(10.2 g/d)は比較的最近(過去5千年以内)の現象である。しかし、旧石器時代の人々の低塩摂取量の論争の基となっている幾つかの証明されていない仮定がある。それらには魚貝類を食べない、調理に海水を使わない、食品保存に塩を使わないとの仮定である。本当に、論争は推論的で、旧石器時代の人々の本当の塩摂取量は不明である。狩猟採取集団研究の小さなコホ-ト(例えば、インターソルト・スタディのヤノマモ・インディアン)では、非常な低塩摂取量が一般的であるようだ。しかし、そのような集団で24時間尿集による塩摂取量測定は非常に挑戦的である。
狩猟採取から定住社会へ移るとき塩が得られることは重要な要因であった。塩は農場の家畜を飼育するのに必要であり、腐敗しやすい食べ物の保存に使われ、冬期を生き延びるにも必要であった。ヒトが生き延びるのに塩の重要性を認識することは多くの社会や宗教で象徴的な重要性をもたらした。塩は早くから交易商品となった。塩と言う言葉はラテン語のサラリウムに由来し、それは塩を買うためにローマ軍隊の兵士に支払われたお金であった。ヒトの健康に必須な物として塩の象徴的な重要性は政治でも使われた。1930年にマハトマ・ガンジーはイギリス皇帝によって課せられた塩税に逆らって反逆者達は自分達の塩を海水から作るために塩の行進を行った10万人以上を率いた。行動の中心として彼が塩を選んだ理由を尋ねられた時、“空気や水の次に塩は多分、命に最大の必要物資である。”と彼は言った。
塩摂取量がヒトの脅威になると言う考えはわずか50年前に出てきたことで、北アメリカやヨーロッパで自由に塩を摂取できたことから規制されるように移ってきた時期と一致している。この変遷は塩摂取量を個人レベルではあまり管理されておらず、生理学的に規制されている塩摂取量(塩欲求)は慢性的な過剰塩摂取量のために摂取量に関連している塩嗜好で置き換えられてきた。
世界の塩摂取量
インターソルト・スタディ、インターマップ研究、プレ研究などの事例を述べているが省略した。
また塩摂取量の測定、塩摂取量と心血管疾患、塩摂取量と心血管発症などの章があるが省略した。