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心不全患者に塩、無塩、あるいは少ない塩

Salt, No salt, or Less Salt for Patients with Herat Failure?

By Muhammad Shahzeb Khan, Daniel W. Jones, Javed Butler

The American Journal of Medicine   2020;133:32-38

 

要約

 減塩は、医者が心不全患者に勧めている一般的な勧告であり、現在のガイドラインで支持されているアドバイスである。しかし、この勧告についてのエビデンスの品質は最適ではなく、最適塩摂取量に関するコンセンサスはない。過剰な塩摂取量は左心室肥大や高血圧と関係しているが、最近のデータは、非常に低い塩摂取量は心不全患者に悪い結果をもたらすことと逆説的に関係していることを示唆してきた。これは低塩摂取量と交感神経活性とレニンーアンジオテンシンーアルドステロン系との関係によって説明される可能性がある。それにもかかわらず、減塩は日常的に勧められており、心不全と血圧治療の基礎として残っている。本レビューで、我々は現在の文献から心不全患者について減塩の長短を考察する。

 

臨床的な意義

  心不全患者に減塩を勧めるエビデンスの品質は最適ではなく、最適塩摂取量に関するコンセンサスはない。

  現在利用できる科学的データは非常な低塩食の価値を示せないでいるが、高塩食も患者の最善の利益にはならない。

 

 心不全の発症は増え続けており、今や生物学的に2,500万人以上に影響を及ぼしている。塩摂取量を減らすことは心不全患者に医者が一般的に勧めていることである。平均して、アメリカ人は9.0 – 10.2 g/dの塩を摂取している。全て現在の国際心不全ガイドラインは塩摂取量の低減を勧めている。しかし、これらのガイドラインのエビデンス・レベルは専門家の意見から用意された物でも、引き出された物でもなく、高品質なデータを欠いている(グレードC; 1)。ガイドラインは3.8 – 7.6 g/d範囲に塩制限を勧めており、最高塩摂取量に関するコンセンサスのないことを反映している。

 

1 心不全における塩摂取量についてのガイドライン勧告値  省略

 

 現在のアメリカ心臓大学/アメリカ心臓協会のガイドラインは、低塩摂取量が有効であるかどうかに懸念があるにもかかわらず、心不全患者に合理的であるとして減塩を勧めている。観察研究とランダム化比較試験は、低塩摂取量は有害であるかもしれないことを示唆してきた。アメリカ国立心臓・肺・血液研究所や国立衛生研究所の栄養補助食品局からの行政概要でも高品質エビデンスの欠如と塩摂取量について懸念している。忘れてはいけないことは、ホルモン置換治療法、心不全におけるベーター・ブロッカー、抗不整脈治療について間違った勧告値をかつて受け入れていたことがある。高塩摂取量は体液貯留、高血圧、心血管疾患罹患と関係していることに疑いはない。

 しかし、心不全の場合、減塩に関して意見の合理的な相違はある。心不全患者に何を勧めるべきか?本レビューで我々は決定に役立つ減塩の賛否について現存するエビデンスを考察する。

 

心不全患者の減塩に賛成する理由

 心不全患者は腎臓灌流が低下しており、そのことで次には交感神経系とレニンーアンジオテンシンーアルドステロン系(RAAS)を活性化し、体液過負荷にもかかわらず水と塩貯留の悪循環に至る。さらに、一層の水貯留を引き起こす不適切なバゾプレシン量に沿ってナトリウム利尿系は早期に害される。この生理学的機構は全ての心不全患者で低塩食についての根拠を提供している。塩摂取量増加は高血圧と関係し、DASH(食事による高血圧予防法)食のような低塩含有量の食事は全死因や悪い心疾患の危険性を改善することを間接的に示してきた。ナトリウム、カリウムと血圧の国際研究は32ヶ国から10,000以上の患者を登録し、塩摂取量と血圧は直接的に相関していることを示した(r=0.0556, p<0.001)。減塩と血圧変化の28件のランダム化比較試験のメタアナリシスは、減塩が脳卒中死と心血管死で大体25%の低下をもたらすことを示した。同様に、高血圧予防試験は、教育によって達成された6ヶ月間の低塩食は平均47ヶ月の追跡中に心血管疾患の発症を低下させる結果を示した。さらに、前向きの観察研究は、塩摂取量増加が全死因と心血管死の増加と関係していることを示した。

 RAASに基づく心不全仮説の原因に反する2つの一般的な理由がある。第一は、逆相関の概念によって説明されるかもしれない塩摂取量と心不全との逆相関を示す観察データである。心不全患者は一般的に低塩食を食べさせられるので、低塩含有量の人々の大部分は一般の集団と比較してより心不全になりやすい。また、減塩に従っている患者はしばしばカロリー摂取量が低く栄養状態も悪いので心不全結果を混乱させるかもしれない。

 第二に、低塩摂取量は交感神経系を刺激することをある人々は示唆し、RAASは理論的に心不全の悪化に寄与する(1 省略)。他の人々は、低塩摂取量が利尿剤使用に似ていることを指摘することで応答する。しかし、利尿剤によるRAASの活性化にもかかわらず、心不全死亡は増加せず、利尿剤は心不全の症状改善のための頼みの綱としての立場を維持している。RAASの活性化を通して低塩摂取量が悪い結果をもたらすとすれば、利尿剤が他の降圧剤と比較されたとき、同様の結果が生じる。しかし、心臓発作防止のための降圧剤と脂質低下治療試験(ALLHAT)で、利尿剤のコロルサリドンはカリウム・チャネル・ブロッカーと比較して6年間の心不全発症率を大きく下げる結果であった(P<0.001)。利尿剤によるRAASと交感神経系活性化にもかかわらず、利尿剤はALLHAT研究における心不全を含む二次的結果のほとんど全てでアンジオテンシン転換酵素阻止剤に優った。

 塩摂取量と心不全再承認率の逆相関を示してきた心不全研究の大多数で、患者のかなりの割合がベーター・ブロッカーやスピロノラクトンを服用しなかった。さらに、外来患者で行われた研究も低塩摂取量患者で心不全の兆候改善に向けた傾向を示してきた。

 

心不全患者の減塩に反対する理由

 3件のランダム化比較試験で、塩摂取量の低下はかなりの死亡率と再承認率増加と言う結果であった(2 省略)。これらの試験は退院後の心不全患者に関する同じ研究者グループによって行われた。心不全入院患者の研究も、低塩摂取量が死亡率増加と心不全関連入院と関係していることを示してきた。研究の1つでは、高張塩水注入のない低塩食患者は、高張塩水注入で中程度から高塩食の患者と比較して有意に長い入院期間と高い再入院率であった。

 塩摂取量制限は2つの理由で心不全患者に悪い結果をもたらすかもしれなかった(3 省略)。低塩摂取量は心不全を悪化させる神経ホルモン活性を引き起こす。多くの動物研究は、低塩摂取量がRAAS活性化を引き起こすことを示してきた。これらはベーター・ブロッカーやRAAS阻止の設定で言明されないかもしれないが、高い血漿レニン活性は基準治療に関係なく、心不全患者の結果の独立した予兆であることを示してきた。さらに、RAASの阻止は腎臓血流を改善するけれども、低塩食の存在で腎糸球体ろ過率を増加できない。

 低塩摂取量は心臓拍出量を減らし、エピネフリンとステージCの心不全患者で血流力学効果を悪化させる結果となる血管抵抗を増加させる。塩摂取量制限は血漿レニン活性、ノルエピネフリン、アンジオテンシンⅡ、尿中アルドステロンも同様に増加に導く。低塩摂取量も心血管疾患患者の素因となる因子であるインシュリン抵抗や血清脂質に望ましくない効果を引き起こす。中程度減塩食(5.8 g/d)患者は一層利尿剤を使っており、低塩摂取量患者と比較してクレアチニンを低下させる結果となる。このことが、7.6 – 8.6 g/d摂取量グループで最低心不全発症率の健常な男女で、心不全危険率と尿中ナトリウム排泄量との間の明らかなU字型関係によって説明されるか?その関係は23件のコホート研究と2件の臨床試験のメタアナリシスで確認された。しかし、観察研究の逆相関は混乱因子となるかもしれなかった。

 患者は3.8 g/d以下の塩摂取量の食事を守ることは難しい、または不可能であることを知っている。最近の研究は、患者のわずか15%が24時間尿中ナトリウム排泄量に基づいて5.1 g/d以下の塩摂取量であることを示唆した。兆候のある患者でも、減塩を守っている推定比率はわずか33%である。3.8 g/dへの減塩は栄養士の助けを借りても達成は難しく、今日の食事環境で患者には非現実的な目標であるかもしれない。より最もらしい接近法は心不全でDASH食に向けて移動し、わずか1栄養素に焦点を置く代わりに全体的な栄養に焦点を置く。

 

答えのない疑問と将来の方向

 1例を除き全ての研究は拍出量が低下した心不全患者に焦点を置いてきた。さらに、研究の全ては圧倒的に白人患者であった。RAAS生理は人種グループ、特に黒人集団で違っているので、低塩摂取量の影響は異なっているかもしれない。最適塩摂取量を選択することも重要である。例えば、進行中の塩制限による心不全における悪い結果の予防研究で、3.8 g/dと言う塩摂取量は7.6 g/dと比較され、それは平均的なアメリカ人がⅠ日に摂取する量よりもはるかに少ない。しかし、非常に高い、または非常に低い塩摂取量の腕を作ることは倫理的、論理的懸念を引き起こす。心不全患者の塩摂取量に関してもっと答えのない疑問がある(表4略)

 

表4 心不全患者の塩摂取量に関する答えのない疑問と将来の研究方向

 

答えのない疑問                 将来の研究方向

どれ位“低い”塩摂取量が心不全患者に適しているか     塩摂取量投与範囲研究

拍出量が低下した心不全患者の低塩摂取量の影響       拍出量が低下した心不全患者に集中した研究

アフリカ系アメリカ人のような幾つかのグループで      より多くの少数民族の登録

低塩摂取量の効果

栄養と老人の弱点に及ぼす厳しい塩摂取量の影響       厳しい塩摂取量と老人の栄養との関係を調査する研究

様々な合併症における低塩摂取量の影響           慢性腎臓疾患の有無患者で低塩摂取量影響の比較

 

今日、医者は何を勧めるか?

 我々が考えていることを見てきたことは、患者はどれ位多くの塩を1日当たり摂取出来るか?と言う話題に関する最も適切なデータである。より良いエビデンスが利用できるまで、アメリカ心臓大学/アメリカ心臓協会のガイドラインに提案されている塩摂取量のアプローチに我々は同意する。過剰な塩摂取量は左心室肥大、腎機能悪化、高血圧、そして心血管疾患と関係しているので、心不全危険性(ステージAB)のある患者は塩摂取量を3.8 g/dに減塩すべきで、既に心不全(ステージCD)のある患者は症状改善のためにある程度の減塩をすべきである。現在、ステージCDの心不全患者に特別な減塩を勧めるエビデンスはほとんどない。現在利用できる科学的データは非常な低塩食の価値を示せないでいるが、高塩食も患者の最善の利益にはならないことを我々は患者にしっかりと知らせなければならない。