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塩と高血圧:減塩は努力する価値があるか?

Salt and Hypertension: Is Salt Dietary Reduction Worth the Effort?

Tiberio M. Frisoli, Roland E. Schmieder, Tomazs Grodzicki, Franz H. Messerli

The American Journal of Medicine 2012;125:433-439

 (訳者注:レビュー論文で減塩すべきと断定できるほどのエビデンスは揃っていないが、わずかでも血圧低下による効果があり、それにより心臓血管疾患の危険率を低下させるエビデンスが増加しているので、減塩に心掛けた方が良いのでは?と言った結論)

要約

 多くの疫学的、臨床的、実験的研究で、ナトリウム摂取量は血圧と関係しており、減塩は血圧を下げると報告されてきた。塩摂取量には若者では高い塩摂取量を減らしても血圧は上昇したままであるというプログラム化された効果がある。老人、アフリカ系アメリカ人、肥満者は減塩に対する血圧低下効果がより出やすい。普段の血圧と減塩程度に応じて、収縮期血圧は4 – 8 mmHg低下する。高血圧予防食の遵守のような他の生活様式の介入と減塩を組み合わせると、より大きな血圧低下が達成される。高い塩摂取量は血圧だけでなく、脳卒中、左心室肥大、タンパク尿の危険性を増加させることも示されてきた。過剰でなければ減塩に関連した逆効果は小さいように思われる。しかし、減塩と高血圧患者の罹患率や死亡率の低下と関係したデータは一貫していない。減塩は高血圧治療の開始を遅らせるか予防でき、投薬治療を受けている高血圧患者の血圧低下を促進させ、心臓血管疾患罹患率や死亡率を減らすために簡単で費用の掛からない手段であるかもしれない。

  

塩摂取量と血圧との相関

塩摂取量と血圧との関係は直接的で漸進的である。1日当たり3 – 12 gの塩摂取量の範囲内では塩摂取量と血圧との間に一定の投与量応答関係がある。わずか3 g/日の低下で高血圧者は3.6 – 5.6/1.9 – 3.2 mmHg、正常血圧者は1.8 – 3.5/0.8 – 1.8 mmHgの血圧の低下が予測される。4週間以上6 gという中程度の減塩では高血圧者で7.11/3.88 mmHg、正常血圧者で3.57/1.66 mmHgの血圧低下が予測された。

この関係は1日当たりの塩摂取量と人の血圧の全範囲で保持されている。18ヶ月間にわたって高々2 gの減塩を続けた正常血圧者は7年間後には高血圧発症率を35%低下させた。一方、すでに高血圧である人々については4.6 g/日の減塩は5.06/2.70 mmHgの平均血圧低下をもたらした。抵抗性高血圧患者についてはデータはより印象的で、多くの高血圧治療薬を用いているにもかかわらず高血圧である患者の中には、4.6 g/日の減塩で22.7/9.1 mmHgの収縮期血圧/拡張期血圧を低下させた。


血圧とは関係ない塩摂取量の効果

増加している事実は、高い塩摂取量が脳卒中、左心室肥大、タンパク尿腎臓疾患の危険性を直接的に増加させている(すなわち、血圧に及ぼす塩摂取量の影響の他に)、腎臓結石や骨粗鬆症、喘息の重症度と関係し、多分、胃癌の主原因であるかもしれないことを示唆している

脳卒中

 日本人の男女の研究で、ナトリウム摂取量は男性で脳内出血や虚血性脳卒中による死亡と有意にポジティブに関係していた。可能性のある機構は、塩が仲介する血管の酸化的ストレスで血管損傷が起き、最終的に脳卒中を引起す。24時間尿中ナトリウム排泄量と脳卒中死亡率との関係は尿中ナトリウム排泄量と血圧との関係よりも強いように思われる。

左心室肥大

 左心室肥大は心臓血管疾患の最終結果や死亡についての独立した危険性を与えるものとして知られている。塩摂取量は重要で左心室量の独立した予測因子である。塩摂取量は高血圧者で24時間血圧について補正後でも、左心室(と右心室にも可能性あり)に肥大効果を発揮するが、正常血圧者ではしない。同様の緊密な関係は子供でも観察された。

タンパク尿腎臓疾患

 塩摂取量と尿中アルブミン排泄量との間に血圧とは関係のない直接的な関係がある。この関係は体格指数で修正される;同じナトリウム摂取量と肥満者は痩せた被験者よりも高い尿中アルブミン排泄量を示すからである。その中で、増加した塩摂取量はタンパク尿高血圧患者でアンジオテンシン転換酵素阻止剤やカルシウム拮抗剤の抗タンパク尿効果を相殺する。低ナトリウム摂取量はアンジオテンシン転換酵素阻止剤に対するアンジオテンシン受容体阻害の添加よりも良く非糖尿性腎障害の血圧とタンパク尿を減らすことを示してきた。

 

減塩に悪い影響はあるか?

 死亡率や心臓血管疾患罹患率に及ぼす減塩の臨床的に重要な効果を排除する不十分な力がまだある。それにもかかわらず、中程度の減塩については、血漿レニン活性または総コレステロール、トリグリセライド、そして低または高密度リポタンパク・コレステロールに検知できる変化はなかった。減塩は悪い影響とは関係なかったが、むしろわずかなアンギナとかなり少ない頭痛の報告があった。

 減塩は出産、妊娠、授乳に大きな影響を及ぼすという主張は節足動物、齧歯動物、ほ乳動物における結果に基づいて行われた。ヒトでは、プラセボと比較して劣化した性機能グループはクロルサリドン治療を受けるようにされた。すなわち、低塩食は性機能障害の主因とは関係なかった。

低塩食はレニンーアンジオテンシン系や交感神経系の刺激と関係しており、交感神経系は血圧低下を相殺させる(もっとも老人、アフリカ系の人々、高血圧者ではそれほどではない)。塩負荷は塩感受性高血圧患者の経口グルコース耐性・テストで総血糖応答を有意に低下させる。したがって、多くの塩摂取量はある患者でグルコース耐性とインシュリン抵抗を実際に改善するかもしれない。逆に、インシュリン抵抗は若い塩感受性者で減塩によって改善させられる。

 

結論

 医者は簡単な調査と基本的なアドバイスで患者に影響を及ぼす。しかし、ほとんどの塩摂取量は加工食品から来るので、効果的な公衆保健戦略はこの患者/医者に基づいた方法を補完しなければならない。減塩は非高血圧者で高血圧の発症または治療を遅らせるまたは予防でき、既に投薬を続けている高血圧患者で血圧低下に寄与できる。減塩は少なくとも部分的に血圧低下によって表れる心臓血管疾患の危険率低下効果を持っているという事実が増え続けている。