過激な減塩政策はランダム化比較試験または観察研究で
支持されていない:エビデンスの格付け
A Radical Sodium Reduction Policy Is Not Supported by Randomized
Controlled Trials or Observational Studies: Grading the Evidence
By Niels Graudal
Am J Hypertens 2016;29:543-548 27 January 2016
要約
いくつかの保健研究所が塩摂取量を5.8 g/d以下にするように勧めており、それに合わせるには60 – 70億人が食事を変えなければならないことを意味している。そのような過激な勧告は確実なエビデンスに基づくべきである。そこで本レビューは次のことを明らかにする。(i) 個人の塩摂取量を5.8 g/d以下に割り当て、健康結果を調べたランダム化比較試験はない;(ii) 肥満した前高血圧や高血圧者のような危険グループを5.8 g/dまで(以下ではない)下げて割り当てたランダム化比較試験は全ての死因に減塩の影響を及ぼさなかった;(iii) 5.8 g/d以下に割り当てたランダム化比較試験は健常な人々(1mmHg以下)の血圧に最少の効果とレニン、アルドステロン、ノルアドレナリン・コレステロール、トリグリセライドに有意な増加を示している;そして(iv) 観察研究は6.7 g以下と12.6 g/d以上の塩摂取量は死亡率の増加と関係していることを示している。世界の人口の90%が現在6.7 – 12.6 g/dの最適範囲内の塩摂取量であるので、公衆保健勧告が塩摂取量を変更する科学的根拠はない。
人口の塩摂取量に関する2013年のIOM(医学研究所)報告書は、塩摂取量についての上限5.8 g/dを幅広く勧めることが有益であるかどうかについて注意を集中してきた。世界人口の95%の塩摂取量は6.6 -12.2 g/dである。これにもかかわらず、いくつかの保健研究所は塩摂取量を5.1 – 5.8 g/d以下まで下げることを勧めている。このことは60 – 70億人が下げるために食事を変更すべきであることを意味している。そのような過激な勧告は、これが安全で、有益であると言う確実なエビデンスに基づくべきである。最高級のエビデンス(格付けシステムで“高”)はランダム化比較試験からもたらされ、二番目の格付け(格付けシステムで“中”)は前向きの観察研究からもたらされる。
本レビューは塩摂取量に関する健康結果の格付け“高”と“中”エビデンスに焦点を置いている。中間的な変数、特に血圧に及ぼす効果の結果は塩摂取量の健康効果を調査するためには不十分であることをIOMは強調した。それにもかかわらず、5.8 g/d以下に減塩すべき勧告は血圧結果と副作用の否定に基づいているので、本レビューは血圧効果とホルモンや脂質に及ぼす潜在的な副作用も調査する。
健康結果に及ぼす高格付けのエビデンス:心血管疾患と全ての死因に及ぼす減塩効健康果
2014年のコクラン・レビュー
罹患率と死亡率に関する追跡データを含む8件のランダム化比較試験についての最新のメタアナリシスは6,603人の全ての死因に及ぼす減塩の効果はなく、3,397人の心血管疾患の罹患率を下げるに好ましい有意な傾向はないことが分かった。研究の中で5件は高血圧者で3件は前高血圧の肥満者で行われた。健常者では行われなかった。さらに、どの研究も5.8 g/d以下まで減塩しなかった。結論として、健常者または増加した心血管疾患危険率の人々のいずれでも5.8 g/d以下の減塩を支持する高格付のエビデンスはない。
健康結果に及ぼす中格付けのエビデンス:心血管疾患と全ての死因と低塩摂取量の関係
2013年のIOM報告書
2013年IOM委員会は塩摂取量と罹患率および死亡率とを直接的に関係させた観察研究をレビューした。塩摂取量の“高いレベル”と心血管疾患の危険率との間にはポジティブな関係があるが、“高いレベル”は定義されていない、と委員会は結論を下した。さらに、塩摂取量5.8 g/dと言う前に定義された上限勧告値は確認も拒否もされなかった。その結果、本報告書は答よりも一層の疑問を残した。報告書が5.8 g/dの限界値に疑問を持った理由は、観察研究のいくつかは(全てではない)“高いレベル”だけではなく、5.8 g/d以下でも死亡率の低下を示し、したがって、塩摂取量と死亡率との間にU字型関係を示していることであった。それ以来、2件の追加的な研究が塩摂取量と心血管疾患および全ての死因との間にU字型関係を独立して確認した。
2014年のメタアナリシス、更新
IOM委員会は利用できるデータの正式なメタアナリシスを行わなかった。そのような解析はIOM報告書後1年して発表された。この解析は、塩摂取量の“高いレベル”は死亡率の増加と関係していたが、“高いレベル”は実際に12.6 g/d以上であったことが分かったことを確認した。この解析はまた、塩摂取量とその後の死亡率とのU字型関係を確認した。6.7 g/d以下の塩摂取量で有意に高い死亡率であった。
塩摂取量が6.7 – 12.6 g/dの時、最適健康結果であったことが分かり、この範囲内では疾患率は一定であった。図1は2研究で更新した6.7 g/d以下の低塩摂取量と比較した通常の塩摂取量の範囲内の人々で全ての死因の危険率について前のメタアナリシスを示している。現在の更新された解析は多くの混乱因子について調整した全人口についての代表と思われる集団試料を含むように制限されている。
図1 省略
血圧に関する高格付けのエビデンス:血圧に及ぼす5.8 g/d以下の減塩効果
減塩政策の伝統的で理論的な背景は、減塩が血圧を下げ、それ故、必然的に心血管疾患死亡を予防するとの仮説であった。血圧に及ぼす減塩の潜在的な効果は、基準血圧と同様に最高の効力を達成する期間(すなわち、短期間であれば、本当の効果を示さないかもしれない)、投与量応答関係(減塩量があまりに少ないと、最高の効力を示さないかもしれない)に依存している。さらに、血圧は加齢に伴って上昇することが示されてきた。前には民族性は血圧に及ぼす減塩の効果に影響を及ぼすと信じられていたが、基準血圧、基準塩摂取量、研究期間、年齢、減塩の程度のような要因は民族性と血圧との関係の大きな部分を説明できる。したがって、これらの要因を考慮して、民族性を調整して影響を意味のないようにすべきである。
長期間の血圧測定を行ったランダム化比較試験は、減塩によって起こる最高の血圧低下は1週間で達成されたことを示した。さらに、130/80 mmHg以下の血圧で14.7 g/d以下(14.7 g/dは世界人口の上限摂取量のほぼ99%に相当する)の人々では、研究で塩摂取量と収縮期血圧または拡張期血圧との間に投与量応答関係はなかった。対照的に、130/80 mmHg以上の血圧と塩摂取量14.7 g/d以上の人々で投与量応答関係はなかった。
2011年コクラン・レビュー
長期間の研究と投与量応答研究からのデータと一致して、167件の研究の2011年コクラン・レビューは正常血圧者(1.27/0.05 mmHg)の減塩に及ぼす最少効果と高血圧者(5.18/2.59 mmHg)でより意味のある効果を示した。表1(収縮期血圧)と表2(拡張期血圧)はこれらの結果を示すが、少なくとも1週間の期間による研究のサブグループ、14.7 g/d以下の塩摂取量、アメリカ人口の血圧を25%刻みで4つに分けてある。この解析は調査された全ての人々の約83%が50%パーセンタイル以上の血圧であった。したがって、ランダム化比較試験は減塩の高い血圧効果に味方して偏向されている。
表1と2は省略
したがって、減塩の潜在的な効果を評価するために、実際に全人口を反映している血圧サブグループの結果を評価することが必要である。中央値(119/71)以下の血圧の人々は収縮期血圧と拡張期血圧に及ぼす最少の効果を持っていることを結果は示している(表1と2)。さらに、75%パーセンタイル以上の効果は小さい(2.72/0.75 mmHg)(表1と2)。血圧分布の25%パーセンタイル以上の血圧値(131/78 mmHg以上)以上の人々は適度であるが、それでも血圧に及ぼす減塩のむしろ中程度の効果(5.68/2.67 mmHg)を持っており、しかし、それは降圧剤で達成される効果(通常、10/5 mmHg以上)よりもかなり小さい。全てこれらの血圧効果は5.3 g/d以上の減塩によって得られることに注意することは重要である。この減塩はアメリカ人口について60%の減塩に相当する。
ホルモンと脂質に関する高格付けのエビデンス:レニン、アルドステロン、カテコラミン、コレステロール、トリグリセライドに及ぼす減塩の効果
塩摂取量勧告を出してきた多くの保健研究所は2013年のIOM報告書の結論を無視することを選んだ。さらに、約50万人の参加者を含む多数の観察研究の首尾一貫した結果を無視することを彼等は選んだ。血圧と言う単一変数に及ぼす塩摂取量の効果に依存する代わりに、血圧に及ぼす減塩の最高効果が1週間で達成されるのに、少なくとも4週間も続けた研究に特に依存している。4週間よりも短い研究を排除することによって、これらのメタアナリシスは血圧よりも代わりとなる他の変数に及ぼす効果を調査するほとんど全ての研究を除いており、したがって、これらの解析は他の関連した変数の影響を調査する力に欠けていた。さらに、他の代わりとなる変数は“急性”と“変遷的な”関係だけを持っているとの仮定は示されて来なかった。これに反して、永久に塩を摂取できないヤノマモ・インディアンはアルドステロンの尿中排泄量が10倍増加した。2011年コクラン・レビューは、減塩がホルモンや脂質を非常に高い増加させる結果であったことを明らかにした。本レビューは“極端な”研究を含めていることについて批判されてきた。表3は研究からの結果の予備解析を示している。すなわち、保健当局により勧められている介入により、その研究は参加者を5.8 – 13.2 g/dの間で通常の塩摂取量または5.8 g/d以下に参加者をランダム化している。本解析で、極端に大幅な減塩研究と2.3 g/d以下の減塩研究も除外された。さらに、7日間以内の期間しかない研究は除外された。レニンとアルドステロンに関する同様の結果は横断的研究で示されてきた。
表3は省略
考察
世界人口の95%が塩を食べ過ぎていると保健研究所は考えており、彼等は5.8 g/d以下に減塩すべきであることを勧めていることは注目すべきことである。2005年に公表された5.8 g/dと言う上限が以下に述べる事実にもかかわらず存続している。(i) 5.8 g/d以下の摂取量に関係した健康利益の経験的なエビデンスはない、(ii) その勧告を支持する2013年IOM報告書の不首尾、そして(iii) 他の全ての必須栄養素と同様に、ナトリウムは研究結果に対して“U”または“J”字型関係を生み出している観察データの実態がある。事実、我々の25集団研究の2014年メタアナリシスは、12.6 g/d以上の塩摂取量と同様に、6.7 g/d以下の塩摂取量は死亡率の増加と関係していたことを明らかにした。塩摂取量と死亡率との間のこのU字型関係はそれぞれの集団研究のいくつかでも明らかにされてきた。現在の更新されたメタアナリシス(図1)は低塩摂取量と死亡率増加との間の関係の前の結果を強調している。
批判は観察研究の避けられない限界を適正に指摘してきた。第一に、塩摂取量の推定は、特に一回の測定値の使用のために不正確と考えられている。しかし、一回の測定値は主にランダム・エラーをもたらし、それは摂取量と結果との関係の推定をゼロに向けて偏向させるが、関係の総合的なパターンを変えない。さらに、集団研究で一回の測定値が多数になるとランダム・エラーを減らす。したがって、平均的な推定値はグループ・レベルで平均的な塩摂取量の信頼できる推定値を提供する。したがって、一回の測定値は集団研究で一般的に受け入れられる。このような関係で、塩摂取量と健康結果とを関係付ける集団研究は、血圧とコレステロールのような健康結果に対する他の危険因子と関係付ける集団研究とは異なっていない。さらに、PURE研究で、著者らは塩摂取量と血圧との直接的な関係を述べており、それは正常血圧者の参加者よりも高血圧者の参加者で大きかった。これらの結果はランダム化比較試験で明らかにされた結果と類似している。“不正確な”塩摂取量測定値がこの良く知られた血圧パターンを明らかにするために十分であれば、測定値が死亡率の結果を明らかにするために不十分であることを仮定する理由はない。
第二に、低塩摂取量と死亡率増加との関係は逆相関を述べてきた、すなわち、病気の人々は健康な人々よりも摂取量が少ないとの主張がある。これは低塩摂取量の効果を過大評価する系統的なエラーに導く。しかし、同じ主張が非常に高い塩摂取量の人々について使われている。その理由は、塩摂取量がカロリー摂取量に従い、したがって、高血圧や糖尿病の危険率増加のある肥満者は比較的高い塩摂取量であると思われる。さらに、これらの混乱因子(体格指数、一般的な疾患)についての調整は低塩摂取量と死亡率との関係を弱めなかったし、PURE研究では、低塩摂取量と健康結果との関係は増加した。病人の参加者や24ヵ月内で罹患した参加者は解析から除外された。同様に、観察研究のメタアナリシスでは、この関係は高血圧や心疾患の人々を含めた試料でよりも集団を代表する試料での方が強かった。これらの結果は、低塩摂取量と死亡率増加との関係を逆相関は説明できないことを示している。
現在のレビューは5.8 g/d以上の塩摂取量を支持するエビデンスは5.8 g/d以下の塩摂取量を支持するエビデンスよりも一層、説得性があるように思えることを示している。5.8 g/d以下の減塩を支持する最少のエビデンスだけが、すなわち、健康な人々で非常に小さな血圧効果は血圧と死亡率との直線関係に依存しており、その関係は観察研究から誘導されている。興味深いことに、保健研究所は血圧と死亡率とを関係付ける観察研究の結果を受け入れているが、塩摂取量と死亡率とを関係付ける観察研究を無視している。ランダム化比較試験も血圧低下は死亡率を低下させることを示してきたが、これは高血圧者だけの事例で示されており、正常血圧者では示されていないと言う説明がある。したがって、この矛盾は著しく、特に血圧と死亡率の関係は不明確である。第一に、血圧と死亡率との直線関係は、特に血圧区間の低い末端で疑問を持たれてきた。第二に、PURE研究で、低塩摂取量は死亡率増加と関係していた、しかし、低血圧とも関係しており、PURE研究では、高血圧のない健康な人々は低塩摂取量で最大の危険率であった。第三に、ベーターブロッカーは高血圧者で血圧を下げるが、死亡率は下がらない。これは多分、副作用のためであろう。現在のレビューは、観察研究で記録されている低塩摂取量と死亡率との逆相関を特に副作用は説明しているかもしれないことを示している。
我々は観察研究に記録されている血圧と塩摂取量との関係を系統的にレビューしなかった。しかし、これらの研究の最大で最も重要な2件の研究は、ランダム化比較試験で小さな血圧効果があったことを確認している。PURE研究の収縮期血圧効果は正常血圧者で1.3/0.5 mmHg/1 g Naであり、高血圧者で2.49/0.91 mmHg/1 g Naであった。インターソルトは正常血圧間隔と高血圧者間隔の両方をカバーしている10,079人で1.6/0.05 mmHgの血圧効果を明らかにした。
減塩についての総合的なエビデンスの欠如に加えて、減塩主張者によって選ばれたエビデンスは疑問である。高血圧予防試験で例証されているように、2つのランダム化比較試験の解析を処理する正しい意向から発展しており、減塩した全ての参加者を除外した統計的に詳しく述べられた観察研究に対して死亡率に及ぼす減塩の効果を示さなかった。後者の事例は塩摂取量と心血管疾患との間にかろうじて“直線的な”効果を示した。罹患の23%は計上されておらず、この解析の統計的な弱点は最低塩摂取量グループに2,3の罹患を加えることは有意性を無くすると言う事実によって強調される。全ての死因に関するデータは示されなかった。
血圧を低下させることによって減塩は健康を改善すると言う仮説は、塩摂取量と健康を関係付ける直接的なエビデンスがなかった100年前に立てられた。事実、最初の中格付けエビデンスは1985年に現れた。それ以来、経験的なエビデンスの確固とした実態は次のような結論を支持している:(i) 5.8 g/d以下に人々を割り当て、健康結果を測定したランダム化比較試験はない;(ii) 肥満で前高血圧者や高血圧者のような危険グループを5.8 g/dまで減塩させることに割り当てたランダム化比較試験は全ての死因に及ぼす減塩の効果を示さなかった;(iii) 5.8 g/d以下に人々を割り当てたランダム化比較試験はレニン、アルドステロン、ノルアドレナリン・コレステロール、そしてトリグリセライドに有意な増加を示している;そして(v) 観察研究は6.7 g/d以下と12.6 g/d以上の塩摂取量は死亡率増加と関係していることを示している。世界人口の90%が現在、最適範囲内の塩摂取量であるとすれば、公衆保健勧告が塩摂取量を変える科学的根拠はない。したがって、論争に対する解決は現在のエビデンスを受け入れ、現在の通常の塩摂取量(6.7 – 12.6 g/d)に合わせるように勧告値を改めることである。別の、多分不可能であるが、解決はランダム化比較試験行うことで、それは健康結果と死亡率を記録できるほど著しく長い期間、現在の勧告値(5.8 g/d)以上の通常の塩摂取量かまたは勧告値(5.8 g/d以下)に合わせた低塩食のいずれかに人々の大きなグループを従わせることである。