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減塩すべきかすべきでないか?塩摂取量と死亡率の謎

To Restrict or Not to Restrict? The Enigma of Sodium Intake and Mortality

By Jordana B. Cohen and Raymond R. Townsend

American Journal of Kidney Disease 2015;65:9-11

 

他のほ乳動物と同様に人類の代謝は0.25 g/dまでも少ない塩摂取量の食事に適合できる。約5,000年前までは中国人が食品保存剤としての塩の効用を発見したことはなく、その後、塩は世界で最も多く取引され摂取される産物の一つとなった。保存剤としての塩の必要性は冷蔵庫の出現で減ってきたが、食品生産で多く使われることは続いている。その結果、世界的にほとんどの成人人口で、平均塩摂取量は5.8 g/d以上で幾つかの人口では12.4 g/dの高さにまで達している。増加した塩摂取量に対するヒトの応答はしばしば不適応で、多くの個々人は血圧上昇を経験したからで、そのことはさらに心血管疾患、腎臓疾患、脳卒中、そして左心室肥大の危険率を増加させるかもしれないからである。

減塩に向けて国際的な努力が行われている。低塩摂取量は収縮期血圧と拡張期血圧で中程度の低下に寄与する;減塩程度が大きいほど収縮期血圧の低下は大きくなることをランダム化比較試験は示している。上昇した血圧は心血管疾患、慢性腎臓疾患、死亡率についての主要な危険因子であるので、減塩も心血管疾患、腎不全、死亡の危険率を減少させると科学者や政策立案者は理論的に仮定してきた。しかし、心血管疾患や死亡率に及ぼす減塩の役割を評価する前向きの観察研究やランダム化比較試験は様々と混じった結果を示している。減塩と重要な臨床結果とを関係付ける明確なエビデンスがないにもかかわらず、多くの医学ガイドライン・グループや政策立案者は全集団に劇的な減塩を勧めている。

 

この重要な研究は何を示しているか?

 アメリカ高血圧学会誌でグラウダルらによって発表された最近のメタアナリシスは低塩食(6.6 g/d以下)対通常食(6.6 – 12.4 g/d)対高塩食(12.4 g/d以上)の摂取量との関係で疾患率と死亡率について調査した。メタアナリシスは23件の前向きコホ-ト研究と2件のランダム化比較試験による追跡研究を含んでおり、全員で274,683人の患者にのぼる。通常塩摂取量と比較して、低塩摂取量と高塩摂取量の両方は心血管疾患と全ての死因危険率の有意な増加と関係していた、しかしこの推定値はあまり安定していなかった。著者らがNHANESⅠとⅢデータの代わりとなる報告書の解析で、低塩摂取量は全ての死因と関係していたが、心血管疾患とは関係しておらず、高塩摂取量は心血管疾患と関係していたが、全ての死因とは関係していなかった。

 高塩摂取量は通常塩摂取量と比較して脳卒中と末期腎臓疾患とより高度に関係していた。脳卒中の危険率増加は日本の患者だけで有意であり、白人患者では有意でなかった。低い通常塩摂取量(6.6 – 9.7 g/d)と高い通常塩摂取量(9.7 – 12.4 g/d)と比較して結果に差はなかった。高塩摂取量の有害効果は低塩摂取量の有害効果よりも程度が大きかった(ハザード比1.160.91)、しかし、全ての死因と心血管疾患を評価した研究のサブ解析は対照的なU字型関係を良く示した。

 存在する文献の凡庸な品質はメタアナリシス結果の解釈を大きく制限している。取り上げるに適確なランダム化比較試験の一次解析にはなかった。メタアナリシスに含まれる観察研究の雑多な分類は結果の有用性を悪くする。必ずしも全てではないが、取り上げた研究のほとんどは年齢、性、人種、教育水準、体格指数、他の併存疾患を含む潜在的な混乱因子について調整した。研究の全てではないが、高血圧についても調整された。これらの異なった集団に関する塩摂取量の影響は非常に意味を持って異なっているかもしれない。著者らは研究集団の異質性を調査し、(高血圧患者、心不全患者、糖尿病患者、慢性腎臓疾患患者、体格指数の増加のような)“危険性のあるサブグループ”を除いて感受性解析を行った;しかし、結果の総括は不明のままであった。さらに、NHANESⅠとⅢのデータはそれぞれ再分析されて、実質的に異なった結果を示したことをその後に発表した。メタアナリシスの結果は再分析されたNHANESデータと置き換えることによって、さらに存在する文献内の不一致を強調することによって大きく影響された。

 注意すべきことは、主要な解析は、塩摂取量としてアンケートを用いた研究を含めており、思い出し法の偏向を潜在的にもたらしている。尿中ナトリウム排泄量は毎日の塩摂取量の確認でさらに大きく変わっている。それでも感受性解析は、尿中ナトリウム排泄量データのある研究だけで行われ、これらの感受性研究は最初の結果を確認した。

 

この研究を前の研究とどの様に比較するか?

 多くのメタアナリシスは心血管疾患結果や全ての死因に及ぼす減塩の役割を評価することに表れている;しかし、ほとんどの研究は低塩摂取量と高塩摂取量を比較している。グラウダルらによって行われたように、前のメタアナリシスは塩摂取量のカテゴリーを層別化(例えば、低、通常、高摂取量)していなかった。テイラーらは正常血圧者患者と高血圧者患者に分けて、心血管疾患罹患率と死亡率に関して減塩を評価するランダム化比較試験のメタアナリシスを行った。減塩は鬱血性心不全患者で全ての死因の危険率を増加させた。基準血圧に関係なく鬱血性心不全でない患者における減塩効果の強いエビデンスはなかった。しかし、メタアナリシスは全部で665人の死亡を示した6,250人の参加者に限られ、その結果、力不足であった。フェン・ヒとグラハム・マクレガーは心不全患者を含む研究を除き、正常血圧者と高血圧患者についてのデータを組み合わせ、増加した患者の異質性を無視して改善力を認めて、同じ研究の反復メタアナリシスを行った。この反復メタアナリシスは大きな心血管疾患の低下と減塩による全ての死因で無意味な低下を示した。ストラズロらは177,025人の患者を含む19件の前向きの観察研究でメタアナリシスを行った。彼等の結論は、高塩摂取量は低塩摂取量と比較して脳卒中と心血管疾患の危険率増加と関係していた;解析は中間の塩摂取量の効果を考慮しなかった。

 2件の前の観察研究は低、通常、高塩摂取量の危険率に関して同様のJ字型曲線を示した。ONTARGETTRANSCENDからのデータに基づいて、オドンネルらは尿中ナトリウム排泄量と心血管疾患との間にJ字型関係を観察した。高い尿中ナトリウム排泄量の患者は心血管疾患死亡、心筋梗塞、脳卒中、鬱血性心不全による入院の危険率増加を示した。同様に、2,807人の1型糖尿病患者成人を評価したフィンランドの多センターFinnDiane研究で、トーマスらは塩摂取量と全て死因との間にJ字型関係と、塩摂取量と末期腎臓疾患の発症との間に逆相関を観察した。

 

臨床医学者と研究者は何をすべきか?

 全ての人々に理想的な塩摂取量の範囲を示すにはエビデンスがないままである。減塩は正常血圧者と高血圧患者の両方で明らかに収縮期血圧と拡張期血圧を低下させる。しかし、減塩が心血管疾患罹患率と全ての死因を減らす明らかなエビデンスはない。多くの臨床ガイドラインと政治的な政策は全員により厳しい減塩を強調している。例えば、アメリカ人の食事ガイドラインは現在3.8 g/d以下の塩摂取量を勧めている。しかし、現在の文献に基づくと、一番良い行動を起こすことに関して矛盾した曖昧なエビデンスしか我々は持っていない。明らかに高塩摂取量は高血圧、心血管疾患、腎臓疾患、脳卒中の危険率を増加させる;しかし、極端な低塩摂取量も長期間の総合効果は不明で最適ではないかもしれない。短期間の減塩は血漿レニン、血漿アルドステロン、カテコラミン、コレステロール、トリグリセライド量、インスリン抵抗性に大きな増加となる結果である。それらの要因は血圧を低下させる潜在的な利益を打ち消すかもしれない。極端な減塩の長期的な効果をより良く理解するにはさらなる研究が必要である。理想的に、各患者への勧告は個々の危険因子や併存疾患に基づいて調整されるべきである。例えば、慢性腎臓疾患患者は減塩で利益があるが、一方、糖尿病患者はより有害になる傾向があるかもしれない。データがもっと明確になるまで、全員に過度の減塩に注意深くなるように医者を政策立案者を我々は激励する。