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塩戦争

Salt Wars

By Mark Whittaker

The Sydney Morning Herald  December 3, 2012


(訳者注: 一律の減塩を勧める保健政策に対して反対の立場の意見を紹介した記事を抄録する。記事で記載されているナトリウム量は塩量に換算して示した。)

 

減塩の利益は長い間受け入れられてきた。しかし、何人かの専門家はこの塩に対する考え方を十分に割引して考えるべきである、と言っている。マーク・ホイタッカーは受け入れられている医学の考え方を混乱させていることを考察している。

 ジョージ・エルムス・メルボルン・クリニックにの中に入る高血圧の糖尿病患者は次のようにアドバイスされるのが標準になっている:塩摂取量が多ければ、それを半分にすべきである。ハイデルベルグのオースチン・ヘルスエルムス教授と彼の学生であったエリフ・エキンチ博士が診察した老齢の二型糖尿病患者638人の塩摂取量を調べたとき、塩摂取量の少ない人々はかなり死に易いことを彼らは知った事実があるにもかかわらず、そう言っている。

 10年後、尿中の塩分量が1日当たり余分に5.8 g(およそ茶さじ1杯の塩)増える毎に、死亡の危険率は28%低下することが明らかになった。たとえもっと多くの塩を摂取する人々が一層太る傾向があるとしても、“全ての死因”による死亡数は少なく、心臓に対する塩の危険性について語られてきたこととは反対に、心疾患や脳卒中による死亡数は少なくなった。

 “人々の血圧を制御できなければ、‘塩摂取量が11.7 gであると言える好機であり、それを半減させれば、血圧制御に役立つ’。我々に関する限り、そういうことである。‘しかし、他方、我々は何をしているかを我々は本当に知らない’とは言えない。”エルムスは言っている。

 しかし、確かにエルムスは彼の患者に減塩するように言っている。塩は殺し屋であるか?ということを証明する数十年間の研究があるにもかかわらず、この研究がまさに一つの逃げ道であったからである。しかし、塩は殺し屋ではなかった。その研究は、糖尿病者、心不全患者、塩摂取量を制限しなかった高血圧者(断固として減塩するように言われた人々)についてより良い結果を示してきた多くの研究の中の一つである。約7件の研究が塩摂取量の増加と死亡率の増加とを関係付けてきた。しかし、関係がないか、あるいは塩摂取量の増加はより低い死亡率と関係しているかのいずれかであることを明らかにしてきた2倍もの多くの研究がある。

このデータがあるにもかかわらず、最近の数十年間の一貫した健康メッセージは、塩が悪いと言うことであった。

 食品産業は自主的に減塩することには消極的であったので、その要求は心臓財団や他の組織から取り下げられた。政府は厳しく対処し、たばこのように塩を扱い、塩に代わる保存剤や人工調味料の危険性を考慮しなかった。それどころかそもそも塩を悪魔のように取り扱って引き合いに出してきた事実がある。

 エキンチとエルムスの研究論文が昨年の始めに発表された時、塩が悪者であるというドグマに挑戦していることに彼等は気付いたが、すぐに引き続いて他の4件の研究が同じ結果を発表した。

 最初の論文は1型糖尿病になっている2,807人のフィンランド人の研究であった。最低と最高の塩摂取量の人々は両方とももっともしばしば死んだが、中間の塩摂取量の人々の大部分はとても健康であった。

 心臓血管疾患になったことのない3,681人のヨーロッパ人についての研究は、最高の塩摂取量の人々で0.8%の死亡率と比較して、最低の塩摂取量の人々で4.1%の死亡率であることを明らかにした。

 昨年の11月に、28,000人のカナダ人による巨大な研究は、最低の塩摂取量の人々は頻繁に死に、最高の摂取量の人々でも同様であったことを明らかにした。塩摂取量が現在勧められている塩摂取量の3~4倍に達するまで、高塩食の有害な効果はなかった。しかし、保健当局により勧められている塩摂取量の人々は、より頻繁に死んだり一層心臓血管疾患症になる低い塩摂取量のグループ内で健康であった。

 しかし、最も権威のある論文は独立した非営利団体のコクラン共同研究による物で、それはあらゆる種類の医学的な疑問に関して良く知られた事実を解析することを専門としている。

 塩摂取量と死亡率との関係を6,200人で調べた7件のランダム化比較試験を調べた。しかし、それによって塩と死亡率または心疾患との関係を示す強い証拠を見い出せなかった。今年、163件の別のコクランレビューは、減塩は心臓の悪い患者と両タイプの糖尿病患者で有害であるように思えると述べた。

 したがって、どうして科学者達は最近の研究についてあまり語ろうとしないのだろうか?エルムスとエキンチは、自分たちの研究のような観察研究をあまり読もうとしない彼等の間で6回ほども私に語っている。“観察研究は仮説を立てるのに良いだけで、それが全てである。”とエキンチは言う。彼等は自分たちの論文で“全ての成人は減塩に努力すべきであると言う普遍的な勧告にそのようなデータは疑問を呈している”と書いておきながら、彼等は私には多くを語らなかった。

 “我々は論争を望んでいない”とエキンチは言う。

 彼等が論争を始めようとは思っていないと言っている一人はブルース・ニール教授である。George Institute for Global Healthのシドニー本部におり、世界中で公衆保健計画を進めており、世界に低塩メッセージを出してきた。

 オーストラリアは高血圧(重症高血圧)の治療に年間約15億ドルを使っているので、ニールは塩に関心を持ったと言っており、 “我々は高血圧者の約10%に効果的に手を伸ばしているだけである。”と言っている。減塩運動に1千万ドルから2千万ドルを使うことによって、我々は費用の1から2パーセントで多くの命を救えると言っている。

 減塩は命を救うという直接的な事実はないことをニールは認めている。“‘減塩すれば血圧を下げられる’と言うことによって少しは減塩効果を推定している。血圧を下げることは危険性を減らすことを知っている。見過ごす直接的な事実は少しはあるが、減塩は有効であるという記述を支持する他の事実は沢山ある。”

 降圧剤は命を救うと言う強い事実があり、ニールによると、減塩について同じことを言えない唯一の理由は、減塩にはお金が要らないことである。“減塩食品の販売で10億ドルを稼げない。反対に、食品産業は美味しくない低品質の製品に塩を加えることによって多くの金を稼げる。”と彼は言う。

 しかし、10月にニールは塩摂取量についてこれまでで最大のランダム化比較試験を行うために、連邦政府の国民保健医療研究委員会から340万ドルを得た。彼のチームは中国北部に行き、360か村を分け、半分は通常の塩摂取量とし、半分は塩含有量を下げるために塩化カリウム30%とマグネシウム10%を混合した塩を摂らせる。全ての村で700,000人が今後4年間の死亡と疾患について観察される。“中国の田舎のこれらの村について非常に安い介入試験で研究できる。しかし、それよりももっとずっと広い地域のオーストラリアで食品から塩を減らし、減塩を試みる漸進的な努力を本当に進めるための事実をその研究は提供するだろう。”とニールは言う。

 しかし、中国北部の人々の研究に基づいて西欧諸国が自国の塩政策の根拠とすることを馬鹿げているという人々がいる。中国は世界で最高の塩摂取量であり、したがって、驚くまでもなく中国で最大の死亡因子として脳卒中を挙げている。彼等の中にはニューヨークの医師アルダーマン博士がおり、彼は1990年代に塩は結局それほど悪くないかもしれないと示唆した最初の保健専門家であった。

 アルダーマン博士が職場に計画を持ち込もうとし、誰が高血圧者であるかを明らかにし、それを治療しようとした1970年代初頭では、アメリカは心疾患が流行していた最中であった。“その他の人々のように私は高血圧者の減塩は良い考えであることを知った。したがって、我々の計画は低ナトリウム食で始めた。低ナトリウム食を人々に要請した効果が患者に治療を止めさせることに気付いてから、我々はそれを止めた。誰も減塩を好まなかった。減塩は犠牲者に苦痛を与え続けた。”と彼は言う。“

 数年経って、アルダーマン博士は、どうしてある高血圧者は脳卒中や心不全になり、一方、大多数は長生きすることに関心を持つようになった。彼は同僚であるジョン・ララフと一緒に研究し、レニン(ナトリウム貯留、体液貯留、動脈の太さを制御することにより血圧を調整するホルモン)が鍵であると結論を下した。“我々が発見したことは、高い血漿レニンの高血圧患者は高いレニン濃度でない同じ高血圧患者よりも心臓発作や脳卒中をずっと起こしやすいことであった。”と彼は言う。この重要性は、レニンとナトリウムが逆相関していることであった:最低の塩摂取量である人々は最高のレニン濃度で、したがって、心臓発作や脳卒中の比較的大きな危険性を持っていた。

 “したがって、私は90年代初期には誰でも低塩食は良いものと信じていたので、文献を調べたが、事実は何であったか?塩摂取量をその後の心臓血管疾患死亡と関係付た文献は世界中で一件だけであった。それはホノルルに移民した日本人の研究で1985年に発表された論文で、塩摂取量と健康結果との間には何の関係もないと報告された。それだけで、他には何もなかった。”とアルダーマン博士は付け加えている。

 アルダーマン博士の4,000人の患者はすべて尿中のナトリウムを測定されているので、彼はその後の疾患と死亡を比較した。我々が知ったことは、最低の塩摂取量の人々は最悪の心臓血管疾患結果をもたらしていたことであった。

 “これはこれまでの知識、私自身の知識を超えていることを私は知った。兎に角、私は結果に関する論文をニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メディシンに提出し、減塩推進者が書いた約10ページのレビューを入手した。方法には批判はなく、唯一の批判は結果が気に入らないことであった。論文は3件の主要な雑誌により拒否された。‘これは発表されることはない’と私は思った。”

 結局、高血圧学会誌が1995年に論文を発表した。但し、塩に対しての事実を全体的に考慮すると、塩は悪者であると言わなければならないことを巻頭言に記載された。それでもアルダーマンはその言葉に怒っている:“その時点では、他にただ一つの論文があるだけで、それは何の関係も示していなかった。‘事実の完全性はなかった。’それは馬鹿げたことであった。”

 アルダーマンはアメリカ産業界の団体、塩協会の諮問委員会のメンバーになるように招待され、会議に参加するために750ドルを受け取った。“その後、塩協会のサクラだと何時も攻撃された。私は78年間その委員会に留まったが、彼等からはそれ以上のお金を貰っていないし、あるいは彼等や他の商業関係者から私の研究に何の資金援助も受けていないが、私がペテン師であったことを根拠にして私の論文は何時も拒絶された。最近の論文で多くの事実が明らかになるにつれて、非難は少なくなってきた。しかし、政策を変えるようには思えない。これは非常に異常なことだと思う。”と彼は言う。

 オーストラリアは1日当たり約4gの塩を提案された食事目標としている:それは茶さじ4/5に当たる。しかし、誰もが十分にそれ以上多くを摂取していても、多くの研究が人々の頻繁な死亡を示してきた量以内であった。

 我々が人々に減塩を強要する前に、減塩が安全であることを我々は証明すべきである、とのアルダーマンの主張について私がニールに尋ねると、彼は次のように答えている:“アルダーマンはずけずけと物を言う懐疑論者であることから出世してきた。全てのいろいろと異なった種類の研究から事実の完全性を見ると、非常に明らかな概念がある…人類は1日当たり2.5 g以下の塩摂取量で生きて進化してきた。彼等は実際に必要とするより少し多い量を摂取していたのではなく、実際の必要量よりも10倍も多く摂取してきた。したがって、実はそれは我々の疑問ではなく、その量は正常であり、その量の安全性を証明する必要があるとは思わない。反対に、人々にこの量の塩を摂取させようとすれば、それをする前にそれが安全であることを証明しなければならない。”

 私は事実の完全性を見なかったが、コクラン共同研究は見た。減塩は中国北部では有益であるかもしれないが、“これらの結果は、減塩がコーカサス人に本当に有益な効果を持っているらしいことを支持してない”ことが分かった。そして“減塩は心不全や1型、2型の糖尿病患者には有害であるように思われる。3疾患患者グループの全てで、減塩は死亡率の増加と関係している。”

 コクラン共同研究の著者らの結論は次のようであった:“明らかな減塩の利益がない13件の集団研究と150件以上のランダム化比較試験の後では、もう一つの立場は、そのような兆候は存在しないことを受け入れることである。”

 どうしてエルムスとエキンチが戦い始めることに躊躇しているかについてミカエル・アルダーマンは理解できる。“私が採った立場を採ることは私を傷つける。私はたまたまいくつか長期的な研究助成金を得たが、私が若い研究者で、今、助成金を得ようと思えば、非常に神経質になるだろう。”と彼は言う。

 5年もすれば論争は終わり、塩の良い評判が復活するだろうとアルダーマンは予想している。“証拠は非常に多くある。塩が何かしら悪いと狂信者が新しい論文毎に述べることは次第に難しくなってきている…。‘あなたたちの事実は気に入らないと彼等はあまり言えなくなっている。’彼等は自分自身で何らかの証拠を得なければならない。”